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不条理から立ち上がる家族 「カタブイ、1995」上演


不条理から立ち上がる家族 「カタブイ、1995」上演 「カタブイ、1995」の一場面(坂内太撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 エーシーオー沖縄と名取事務所が共同制作する3部作の第2弾「カタブイ、1995」(内藤裕子脚本・演出)が1~6日、那覇市のひめゆりピースホールで上演された。2022年の「カタブイ、1972」に続く物語。反戦地主の家族を通して、復帰後も変わらぬ米軍基地と不条理な現実に翻弄(ほんろう)され、諦め、怒りと共に再び立ち上がる県民の姿を丁寧に描いた。
 物語の舞台は、前作から23年後の1995年。前作の主役反戦地主の波平誠治が死去し、サトウキビ畑は娘で元教員の石嶺和子(新井純)が引き継いでいた。しかし、軍用地の使用期限切れを巡り、那覇防衛施設局員の久保直子(稀乃)や、国との契約を済ませた地主の池原茂(花城清長)らが度々訪れ、和子にも契約を迫る。そこに、和子の娘で教員の恵(馬渡亜樹)の元恋人である杉浦孝史(高井康行)が東京から久しぶりにやって来た。復帰後も変わらぬ現状があらわになる中、10月に米兵による少女乱暴事件が起きる。
 舞台は、カタブイを思わせる激しい雨音と共に日本国憲法の朗読で始まった。その後も物語の合間には日米安全保障条約、日米地位協定の条文の朗読が織り込まれた。条文を読み上げる演出は説明調でもあったが、自分の土地を守りたいだけなのに難しい判断を迫られたり、米兵による事件に怒ったりする和子たちの日常と重ねることで、条文に潜む不条理が生活の中にあると浮かび上がらせた。
 悲しみと諦めが漂う物語で光となったのが、和子の孫で中学生の智子の存在だ。演劇初出演の宮城はるのが好演した。民謡から安室奈美恵まで天真らんまんに歌い踊りつつ、沖縄が基地に悩まされる現状には「なぜ」とまっすぐに疑問を呈す。久保や茂、杉浦など、立場は違えどそれぞれに沖縄を思っていると感じ取った智子が登場人物同士をつなぐ役目を果たした。また、前作に比べ女性の登場人物が中心になる展開には、時代の変遷も感じた。
 和子、恵、智子らが県民総決起大会に参加し、県民が心を一つにして立ち上がる高揚感で幕が閉じる。来年には第3弾の「カタブイ、2025」が上演予定だ。沖縄だけに降るカタブイがやむ日が来るのか。復帰から始まった誠治や和子、智子たちの物語の続きは、今を生きる者たちに託されているのかもしれない。
  (田吹遥子)

 18日まで東京公演
 15~18日までは東京都の下北沢小劇場B1で上演する。前売り4500円(当日500円増し)など。前売り券は完売。当日券販売予定。問い合わせは名取事務所、電話03(3428)8355。