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ブレヒト作品 沖縄芝居に 「ゼチュアンの善人」 現代演劇で試演 80年前名作 25年度上演向け


ブレヒト作品 沖縄芝居に 「ゼチュアンの善人」 現代演劇で試演 80年前名作 25年度上演向け 「ゼチュアンの善人」の一場面=2月17日、那覇文化芸術劇場なはーと小劇場(久高友昭撮影)
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 那覇文化芸術劇場なはーとは、ドイツの劇作家・演出家のベルトルト・ブレヒト「ゼチュアンの善人」(1940年)を、2025年度に沖縄芝居の新作として上演するプロジェクトを始動した。沖縄芝居台本制作過程として、2月17日には現代演劇によるリーディング試演会があった。誰にでも優しくあろうとするだけで、矛盾や困難に直面する。生きづらい世の中を描いた80年前の名作は、現代の沖縄で深い共感を呼んだ。 (田吹遥子)
 リーディング試演会は、なはーとの林(はやし)立騎(たつき)による新翻訳から、劇団ビーチロックの主宰で演出家の新井章仁が上演台本を構成、演出した。県内の劇団で活躍する俳優16人が出演した。試演会だが、出演者は衣装を着て演技し、背景や大道具も場面ごとに転換するなど、台本を持っている以外は通常の舞台とほぼ変わらない演出だった。
 貧しい娼婦のシェン・テ(井上あすか)が、水売りのワン(仲嶺雄作)の紹介で、善良な人間を探す3人の神(西平士朗、上門みき、ジョーイ大鵞)に宿を貸すところから始まる。報いとして得られた大金でタバコ屋を始めると、8人家族が家に大挙し居候したり、飛行士を失業したスン(片山英紀)と結婚しようとすると金目当だったり。善意で尽くすシェン・テの生活はすぐに崩壊寸前に。時折現れる厳格ないとこのシュイ・タによって難を逃れるが、シュイ・タはシェン・テが作り上げ演じていた人物だったのだ。シェン・テは「善良であろうとすると、自分自身が分裂してしまう」と嘆く。
 最後は観客にこう問いかけて幕を閉じる。「どうすれば人は善人が善い終わりを迎えるように助けることができるのか。みずから結末を見つけてください」
 優しい女性のシェン・テと厳格な男性のシュイ・タの一人二役を、井上が巧みに演じ分けた。シェン・テや取り巻く人々はそれぞれに苦しい生活を強いられ余裕がない。誰かの幸福のために誰かが犠牲になる社会の仕組みが、俳優たちのリアルな演技も相まって鮮明に浮かび上がった。
 今も変わらず絶望すら感じる社会構造に、観客に託された大きな問い―。どのようにして沖縄芝居になるのか。2025年度には現代演劇と、嘉数道彦脚本・演出による沖縄芝居、両方で上演される予定だ。