エンドロールが流れても誰も席を立たなかった。数々の映像や文字で、アウシュビッツ強制収容所のことは知っている。どれも怒りや哀しみを持たずして触れることはできない類いのものだ。そんな過去の知識を総動員しても、本作の衝撃には立ち向かえない。
美しい花々に手入れされた芝生。庭園の横には、しゃれた邸宅にプールまである。子供たちは愛らしく元気だ。ここに暮らすのは強制収容所の指揮官の家族。
だが、高くめぐらされた塀の向こうから始終聞こえてくる不穏な音の数々は何だ。悲鳴、銃声、怒号、慟哭(どうこく)。そして頻繁にあがる煙突の煙。
色にあふれた豊かな風景が延々と映し出されても、塀の向こう側の映像は一切ない。それでも、私たちはそこで何が行われているかを知っている。
自分たちの生活の向上以外興味がない夫婦に、壁の向こう側は絵空事。自分の中の「無関心」の領域にスポットが当たるようで居心地悪く恐ろしい。監督はジョナサン・グレイザー。(スターシアターズ・榮慶子)
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壁の向こう側は絵空事 関心領域 ミハマセブンプレックス・公開中
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琉球新報朝刊
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