母親の暴力と強制の結果、売春を余儀なくされ、覚醒剤にも手を出してしまった21歳のあんは、人生のほとんどを下を向いて過ごしていたのだろう。顔を上げ、世界を見ることで救われるなんて思えないほど、彼女には幸せな体験がない。
でも絶対に、顔は上げるべきなのだと、この映画の中であんが体現する。顔を上げ、助けてくれる人を探し、進むべき道を見つけないと、ずっと何も変わらないと。ただ、それを促す人がそばにいることが絶対に必要で、彼女は、上を向くきっかけを与えてくれる人にとうとう出会い、そして失った。
この物語は、小さな小さな、あんという一人の女性の物語じゃない。全ての人の物語として観る
者の心へ絡みついてくる。
深夜の仕事帰り、芳醇な甘い香りに誘われて顔を上げると、サガリバナが満開で、涙ぐむほどに美しかった。首を伸ばし、その香りと美しさに酔いしれながら、あんのことを思い、顔を上げるきっかけって何だろうと思った。監督は入江悠。(桜坂劇場・下地久美子)
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顔上げるきっかけとは あんのこと 桜坂劇場・あすから
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琉球新報朝刊
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