【カナダで生きるトロントの1、2世たち】(8) 小橋川 慧さん


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心理学研究に長年情熱を傾けてきた小橋川さんと妻の啓子さん

 カナダ・ウインザー大学の名誉教授小橋川慧(あきら)さん(73)=那覇市首里出身=宅を訪ねた。啓子夫人手作りの日本食が出され、その心遣いがうれしかった。
 小橋川さんは学究の徒として発展心理学に情熱を傾けた人生を送ってきた。青山学院大学から琉球大学に編入し心理学を専攻。1954年にガリオア資金で米国留学への切符を手にした。テネシー州のピーボディ教育大学で英文学の学士号、心理学で修士号を取得した。

 帰国命令が出ていったん沖縄に帰り、琉大教育学部の講師を務めた。その後、再渡米し、アイオワ大学の発達研究所のスタッフとなり、小橋川さんの心理学研究への情熱はさらに拍車がかかった。
 63年には発展心理学の博士号を取得し、名実ともに小橋川博士の誕生となった。ミネソタ大学児童発達研究所の研究員となるが、再び琉大で助教授に。その後は、友人の誘いでミシガン州立大学心理学科の客員教授、そしてカナダのウインザー大学心理学科の教授として30年近く教壇に立った。
 小橋川さんの、大学や心理学会への貢献は大きい。数多くの研究論文は、心理学の専門家らに大きな影響を与えた。「学習」をテーマに「情報検索」の研究で「記憶」によって学習が成立することを突き詰め、その研究をまとめた「記憶の検索方略の発展」の論文は、幾つかの心理学の権威書に引用され高い評価を受けた。
 そのほかに、小橋川さんは児童の「性的役割行動」について実際に児童を対象に玩具とモデルを使って実験。「幼児は、社会化の過程で自分の性に適した行動特性、考え方、態度―適切な性役割を獲得していく。社会的、文化的な性差を学習していくことは、幼児・児童の正常な人格発達の一面である」と結論付けた。
 これは、日本で初めて行われた巧緻(こうち)で興味深い実験として国内外で評価され、米国でベストセラーだったテキストなどに紹介された。当時アメリカの「発達」に関するテキストに日本の研究で引用されたのは小橋川さんの研究のみだった。
 それらの実績が認められ、小橋川さんは、アメリカ心理学会のジャーナル「Developmental Psychology」の論文審査委員を務め、さらに北米児童発達研究協会のジャーナルの論文審査委員を歴任した。カナダでは、カナダ自然科学協会、カナダ人文社会科学研究協会の研究助成金申請書審査委員やウインザー大学心理学科大学院の研究員を務めた。
 心理学に人生をかけ情熱を燃やしてきた小橋川さんを支えてきた啓子夫人。2人の間には長女敦子さん(40)、長男善樹さん(39)、二女みちこさん(35)の一男二女がおり、孫も3人いる。
 (鈴木多美子米国通信員) (おわり)