<ライフ イン NY>1 沖縄への思い熱く 前嵩西一馬さん


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沖縄の文化と政治の関連性などを研究する前嵩西一馬さん=コロンビア大学

 ニューヨーク同時多発テロ事件から早4年近くになる。人々はそれぞれがテロの怖さを身近に感じながらも、ニューヨークの街のコスモポリタン的自由さと可能性をこよなく愛しているように見える。そんななかで信念を持ち、たくましく生きるウチナーンチュたちを紹介する。
(鈴木多美子通信員)
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 著名な学者が名を連ね、多くのノーベル賞受賞者を出しているアイビーリーグの名門校、コロンビア大学。人類学部博士課程に籍を置き、現在博士論文執筆中の前嵩西一馬さん(34)=那覇市出身=をコロンビア大学に訪ねた。
 前嵩西さんの専門領域は沖縄研究。「1970年以降の沖縄の文化と政治の関連性」がテーマ。研究トピックは、沖縄石油備蓄基地をめぐる金武湾闘争の記憶から、豚を生けにえにする儀礼の一つ「シマクサラー」、阿麻和利を演じる勝連町の子供らの組踊公演、そして琉球語などと範囲は広い。それら沖縄の文化と政治の密なる関係を一つ一つ追究していく。与勝半島でフィールドワークを終えてきた前嵩西さんは、「一見ばらばらの事物が、『犠牲』という概念で緩やかにつながっている」と話す。
 研究の傍ら、前嵩西さんは、ドナルド・キーン日本文化センターでパンフレットや報告書などを作成、講演や手紙などの翻訳の仕事にも携わっている。日本文化研究では世界的に有名なドナルド・キーン博士。そのセンターは日本研究の発展と米日両国間の文化交流を目的としている。
 「これまで講演の手伝いで瀬戸内寂聴さんら多くの著名人に個人的に会うことができた。また米国人にも大人気のゴジラ誕生50年を記念する大学内の『ゴジラ展』を手伝ったりしている。いろいろな意味で勉強になっている」と前嵩西さんは話す。基地問題を取り上げた写真展やシンポジウムには通訳やアドバイザーとして一役買った。
 沖縄を研究する前嵩西さんの沖縄への思いは熱い。かつて日本の大学院で「沖縄を背負い過ぎるな」と指導教官に言われたことがあった。背負い込むことで見えなくなってしまうことがあることをここに来て悟ったという。「沖縄文化を研究するには沖縄を降ろしたり、担いだりする技術が必要だと感じた。一方で、『沖縄は着脱可能なランドセルみたいなものじゃないだろう』という別の沖縄研究者から投げ掛けられた言葉も手放せない」と話す。
 ニューヨークで知り合った神奈川県出身でバレリーナの珠世夫人は、現在ユダヤ系の学校でバレエを教える傍ら、琉球舞踊を習い始めた。街角のデーリーショップでの取材。3時間があっという間に過ぎた。人間が好きだという前嵩西さんの沖縄をテーマにした熱弁をもう一度聞きたい思いにかられた。