沖縄最古のサウナ専門店を盛り上げる 新星サウナ経営者の挑戦

  • 沖縄県全体
このエントリーをはてなブックマークに追加

「沖縄にサウナ文化を根付かせたい―」その一心から40年以上続く県内最古のサウナ専門店「大山サウナ」で働く青年がいる。彼の名は児玉祐樹さん(35)。沖縄県は全国で最も銭湯が少ない県であり、県公衆衛生協会の調べでは、「自宅で湯舟に浸からずにシャワーのみで済ますという人が9割」というデータも出ている土地柄。そんな大衆浴場の文化が深く根付いているとは言い難い場所で、他業種の同世代とつながりながら、サウナの魅力を広げるべく健闘する青年の想いに迫った。

◇聞き手 野添侑麻(琉球新報Style編集部)

サウナは流行り廃りのものじゃない

―自己紹介をお願いします。

児玉祐樹と申します。秋田県出身です。奥さんが沖縄出身ということもあり、前々から沖縄に住みたいと思っていて、去年4月に移住しました。今年7月に働いていた会社を辞めて、サウナ経営者として独立を目指して大山サウナで働いています。

―サウナ経営者を目指しているとのことですが、児玉さんは元々サウナが好きだったんですか?

実はサウナ好きになったのは、ここ数年からなんですよ。サラリーマンだった頃、朝から12時間以上デスクワークが続いて、頭も体も重い疲労に悩まされていたんです。その時にいろいろ調べたら「疲労にはサウナが効く」というのを見て、近所にあったこのお店に足を運んだら見事にハマって、そこから通い出しました。元々、将来的に沖縄で何か事業を始めるために引っ越してきたというのもあって、「サウナ経営」に挑戦したいという思いが芽生えたんです。



オーナーさんにサウナ経営について話を聞く機会があったんですけど、「40年以上続いている店だけど、体調が悪くて近いうちに店をたたむのを考えている」とおっしゃっていたんです。だったら、オーナーさんの代わりに働き手になろうと思って、思い切って手を挙げて7月1日から働くことになったんです。将来的な独立に向けて、日々勉強しているところです。

―サウナ経営者を目指すっていうのはサラリーマンから一転して、かなり思い切った行動だと思います。

かなり思い切りましたね。でも、家族の理解もあって出来ることなので、すごくありがたいと思っています。昔から自分でお店をやりたいって話は奥さんにしていたので、僕の気持ちを尊重してくれました。前職も良い会社だったんですけど、「サウナをやりたい!」っていう気持ちを止められなかったですね。

昨年からのコロナ禍で仕事もずっと在宅ワークになって、人と関わることもなく毎日朝早くから遅い時間まで部屋にこもって仕事ばかりでメンタル的にも参ってしまい、仕事に対して段々とやりがいを感じなくなっちゃって…。かといって、数年でコロナ禍の状況は収まらないだろうなっていうのも感じていました。沖縄に引っ越して、やりたいことはゆっくり時間をかけて探していこうと思っていたんですけど、この鬱屈(うっくつ)した状況からも抜け出したい一心で「ゆっくりしている場合じゃない!」と思って、すぐに次に向けて動くことにしました。そんな中で「サウナ」という心が動くものと出会えて、働くことができたのはすごくラッキーだったなと思います。タイミングってあるんだなと思いました。
 


大山サウナのサウナ室。上段に2人、下段は4人ほど座れる作り。

なぜサウナ経営を始めようか思ったかというと、昨今サウナブームと言われているんですが、サウナの魅力を知れば知るほど「これは廃り流行りのものじゃない!」と思ったんです。サウナに入った後の心地良さや爽快感は病みつきになるし、その味を知った人はこの先もサウナを嫌いになることはないというか…(笑)。彼らは根強いファンとしてサウナ文化そのものをずっと愛して広げてくれるんですよ。そうしたサウナ好きを増やすための動きを沖縄で挑戦したいと思ったんです。
 


大山サウナの外観


家のようにくつろげるサウナ?


―なるほど…。確かに僕も初めてサウナに入った時の衝撃は今でも忘れられません。そこから今では毎日入っているくらいです(笑)。実際にサウナ経営に携わってみて感じた感想をお聞かせください。

会社員と違って、全ての物事を自分で判断して決めることがむちゃくちゃ楽しいですね。また、最初の一か月は常連さんと仲良くなることから始めました。というのも、この店は2、30年前から通い続けている人もいるほど、常連さんがすごく多いんですよ。なので、自分が今後このお店でやっていきたいと思っていることを、お客さんにも共有するところから始めて、丁寧にコミュニケーションを取っていくことに重きを置きました。

―お客さんとのお店の間に深い信頼感がありますよね。脱衣所のロッカーの上に、常連さんたちのお風呂セットがたくさん置かれているのもとても印象的でした(笑)。

これも、ここ一か月で二倍くらいに増えたんですよ。この文化、良いですよね。たまに「自分のがない!」っていうお客さんもいますが(笑)
 



―大山サウナの自慢のポイントを教えてください。

水風呂ですね!うちの水風呂は県内No.1の自信があります。宜野湾市って地下水が豊富な土地なんですが、その中でも大山は昔からたくさん湧き水が湧いているんです。地下から汲み上げた水を、軟水器を使って柔らかい水質に仕上げてから使っています。水温にもこだわっていて13度をキープするようにしています。サウナ好きにとって水風呂って一番大事なポイントなので、この作業は大事にしています。冷えた水風呂をしっかり味わえるように、サウナ室は高温の90度に設定しています。
 


浴槽は二つに分かれており、自慢の水風呂は右側で広い作りになっている。左側は湯船で温かいお湯が楽しめる。

あとは、この館内に溢れる昭和感満載の雰囲気ですかね。建物も古いし、決して大衆向けではないと思いますが…(笑)、この味のある雰囲気に引き付けられて通ってくれる人もいます。こういうノスタルジーな雰囲気を撮ってSNSで発信したら、予想通り集客にうまくヒットしている手ごたえを得ています。「Googleマイビジネス」も取り入れて、データを取りながら今後の経営に活かすつもりです。

―歴史ある施設がSNSを通じて若い世代に広がっていくのは、素晴らしい取り組みだと思います。SNSを始めたことで、何か効果は感じていますか?

SNSを見て来てくれるお客さんが増えましたね。特に学生が多く来てくれるようになりました。サウナ好きの友達で集まって県内各地のサウナを回っているらしいです。人気のお店をやっている方々も常連としてよく来てくれていて、彼らが口コミで若い世代に広げてくれているという話も聞きました。こんなすぐに多くの方に来ていただけるとは思っていなかったので、本当ありがたいですね。うちはタトゥーが入っていても入浴可能な施設なので、普段サウナに行けなかった人たちも、是非足を運んでサウナの良さを楽しんでいってほしいですね。
 

良いサウナのための条件が全て揃う場所

―サウナ施設の良し悪しを決める際に、よく評価点として挙げられるのが「休憩スペース」。大山サウナさんは、広々とした休憩スペースがすごく評判になっていますよね。

休憩スペースには一人掛けのリクライニングソファをたくさん並べています。このソファは30年以上前に買ったものらしいんですが、未だに状態が良いんですよね。当時、相当良いやつを買ったんだと思います。ソファ以外にも畳間で休憩することもできます。バスタオルを敷いて寝転がるのがおすすめです。
 


大山サウナの休憩スペース。リクライニングソファ全席に扇風機が設置されている。

僕のおすすめスポットは畳間の縁側。縁側に腰掛けて、風を身体全体で浴びながら休憩できるんです。心地よくととのう ※1 ことができます。お店が高台にあるので、吹き抜ける風がすごく気持ち良いんですよ。このお店は「質の良い地下水が湧いていて、心地良い風が入ってくる」というサウナを心底楽しむための好条件が揃っているから、40年以上も愛されているんだろうなと感じています。
 


児玉さんのお気に入りスポットの縁側。

―口コミで広がっているとのことですが、県外の方から問い合わせはあったりしますか?

結構観光客の方も来てくれますね。その他にも県外のサウナ好きの方からSNS通じてメッセージもらったりします。何人か他のサウナ経営者の方でSNSをフォローしてくれてるのも感じています。コロナ禍の状況が落ち着いたら全国にあるいろんなサウナを回ってみたいですね。長野県にある「The Sauna」は行ってみたいですね。機会があれば住み込みで修行したいくらい(笑)。
 

沖縄に根づくサウナを

―最後に、児玉さんの今後の展望を教えてください。

やっぱり自分のお店を持ちたいですね。一店舗目は那覇市で開きたいと思っています。那覇に出せたら、次は北谷町や沖縄市にも出したい。それぞれの場所によってコンセプトを変えてやっていきたいですね。沖縄って街によってキャラクターが全く違っていて面白いですよね。それぞれの街で独自の文化が根付いていると感じていて、その街の系統と合わせてサウナを展開したら、面白いだろうなと睨んでいます。那覇はビジネスマンのニーズに応えるようなお店に、沖縄市はサブカルチャーと交わるようなお店を作りたいですね。沖縄でサウナを開業するためのハードルはかなり高いんですが、どうにか一年後には出したいと思っています。

あとこのお店にいるうちにやりたいこととしては、同世代の常連さんでアパレルをやっている方がいて、彼らとコラボしてTシャツなどのグッズを作る予定です。奥のスペースにはキッチンがあるので、サウナ後に美味しい食事を楽しめるスペースを作りたいと思っています。これまた飲食店をやっている常連さんもいるので、彼らとも一緒に何ができたらいいなと思っています。あるものを活かしながら、サウナの魅力を広げることができるか考えるのがすごく楽しいですね。
 




休憩スペースにある冷蔵庫には、各種ドリンクがびっしり詰まっている。サウナー御用達ドリンク「オロポ ※2 」も自作することが出来る。後払い制。
 


―大山サウナを拠点に、さまざまなジャンルから沖縄のサウナ好きが集まるコミュニティが生まれつつあるんですね。

「サウナが好き」という共通点でつながった人たち皆、お店を盛り上げようとしてくれていて、すごく嬉しいです。世代が上のお客さんたちには落ち着ける場所として、同世代より下のお客さんには秘密基地のような場所として、このお店がコミュニティの役割を果たしているのかもしれないですね。建物が古くてこの場所であと何年出来るかわからないんですが、こういう昔ながらのお店ってどんどんなくなっているので、この先も残していくためのやりがいも感じています。このお店でサウナ経営の全てを覚えて、早く一人前になって独立できるように頑張ります。
 



※1 サウナ→水風呂→休憩を何回かくり返すと、深くリラックスした状態になります。この状態に達することを、サウナ好きの間で「ととのう」と呼ばれています。

※2 オロナミンCとポカリスエットを混ぜたドリンク。




大山サウナ

営業時間:9時~21時 (第4月曜日定休。日曜は朝8時からオープン)
料金:1,000円

住所:沖縄県宜野湾市大山3-3-6
電話番号:098-898-2401

Instagram:https://www.instagram.com/oyama_sauna/

※男性専用のサウナ施設となっています
 


聞き手・野添侑麻(のぞえ・ゆうま)

2019年琉球新報社入社。音楽とJリーグと別府温泉を愛する。18歳から県外でロックフェス企画制作を始め、今は沖縄にて音楽と関わる日々。大好きなカルチャーを作る人たちを発信できるきっかけになれるよう日々模索中。



WSJ特設サイト

前の記事オンラインサロンに参加する際に確...
次の記事島の苦難の歴史をわらべうたに込め...