旅立ちの季節 しかたにさんちの自然暮らし(19)


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 3月も中旬をすぎると、一雨ごとに暖かくなってきましたね。ピンクの花が満開だったサクラの木は、柔らかな黄緑色の葉に包まれ、葉陰には小さな緑のサクランボも隠れています。

 花の蜜をさがして枝から枝へと忙しく飛び回っていた小さなメジロに替わって、先日はぽってりとしたキジバトが小枝にとまり、少し迷惑そうな顔でこちらを見下ろしていました。サクランボの色づき具合を確認に来たのかな。

若葉の下には、ぷっくりふくらんだサクランボ

 鳥の入れ替わりに気づいたのは、2週間ほど漫湖水鳥・湿地センターに通っていたから。毎日渡り鳥の話を聞き、望遠鏡で干潟の鳥たちを追いかけていたら、鳥の動きに敏感になってきたようです。

 この時期、漫湖の干潟では、日本列島やさらに遠く北の国からやってきた様々な渡り鳥たちを、数多く観察することができます。これらの渡り鳥は沖縄よりずっと北で生まれ、冬の間は南の暖かいところで暮らします。そして、春には卵を産み雛を育てるために、今時分からまた北の繁殖地に戻って行くのです。

 鳥の中には、去年の秋にやって来てそのまま沖縄で過ごしているのもいますし、冬の間はさらに台湾やフィリピンなど東南アジアまで渡って行く鳥もいます。沖縄からさらに南に行った鳥は、帰りがけにまた沖縄に立ち寄って、餌を食べながら一休み。

 例えばギンムクドリは集団でマングローブ林にやってきて、数日休んだらまた出発。枝で休む鳥たちの羽がずいぶん傷んでいるのを見ると、旅の大変さがわかります。

羽はボサボサだけれど、元気よく叫ぶギンムクドリ
クロツラヘラサギの若鳥は、くちばしが黒くない

 漫湖にやってくる鳥で一番有名なのは、絶滅が心配されているクロツラヘラサギ。毎年数羽、干潟の水路で餌の魚をつかまえているのを見ることができます。今年の1月に行われた世界的な数の調査では、3,941羽が確認されたそう。一時は500羽ほどまでに減った彼らも、世界的な取り組みで少しずつ数が回復しているようです。

 沖縄では渡り鳥としてよく知られているサシバも、ここの常連さん。彼らのお目当は、カニです。

手すりの上で餌を食べ、一休みするサシバ

 普段は見晴らしのいい木の枝から獲物を狙っているのですが、時には木道の手すりに止まっていることも。鳥が飛び去ったあとの手すりをよく見ると、サシバだけでなく、大小様々な鳥の足跡がついているのに気がつきます。みんな泥の上を歩いて餌を探すので、泥だらけの足跡が残っているんです。

 木道には鳥の足跡の解説パネルもありますから、鳥の名前を調べることもできますよ。でも、時には足跡だけでなく、白いフンも落ちているのでご注意を。

 めぐる季節に合わせて各地をまわり、季節が一回りすればまた生まれ故郷の巣に戻って新しい命の輪を繋げていく鳥たち。春分の日が過ぎれば、彼らも太陽の動きが次のサイクルに入ったことに気づくでしょう。そろそろ、旅立ちのときですね。

鹿谷法一(しかたに自然案内)

 しかたに・のりかず 琉球大卒、東大大学院修了、博士(農学)。広島生まれ。海に憧れて沖縄に来て、もう30年以上。専門は甲殻類。生物の形と機能の関係に興味がある。趣味は本とパソコンとバイクいじり。植物を育てるのも好き。