「障がいって何だっけ?」って言わせたい! 沖縄出身のサンバダンサーが岐阜で始めた挑戦

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放課後児童デイサービスに通う子どもたちとサンバを楽しむ伊波友里恵さん(左)=岐阜県内(伊波さん提供)

 「サンバを通して『障がいって何だっけ?』って思える空間をつくりたいんです」

 岐阜県でただ一人の“サンバダンサー”伊波友里恵さん(25)=読谷村伊良皆出身=は、身体や知的に障がいがある児童生徒への療育の一環として、ブラジル伝統のサンバを子どもたちと共に楽しんでいます。放課後児童デイサービスで作業療法士として働く伊波さんは、サンバチーム「はびりジーニョ」を子どもたちや保護者と結成。カリキュラムとして踊りを楽しむだけでなく、地域のイベントへの出演も果たしました。

 「障がいのある子でも、できることはいっぱいある」と語る伊波さんに話を聞きました。

 

障がい児にサンバ!? 周囲の疑問を吹き飛ばしたのは…


伊波友里恵さん

―療育にサンバを取り入れたきっかけは。

 私がまだ沖縄に住んでいたころ、私のサンバの師匠・宮城佳代子さんが、肢体に障がいがある人たちと那覇まつりパレードに出演するという新聞記事(2014年9月27日付琉球新報)を読み、「こんなことができたらいいな」とぼんやりと思っていたんです。

 作業療法士として地元読谷村で働いていましたが、技術や理論をもっと学びたくて2015年4月に岐阜県に移住しました。就職した放課後児童デイサービス施設「はびりす」は療育を重視しており、それぞれの作業療法士が自分の趣味を生かした療育カリキュラムを立てていました。

 サンバが大好きだった私は「心と体の開放」をテーマに、サンバを使ったカリキュラムを提案し、子どもたちと一緒に踊り始めました。当初は「障がいのある子にサンバなんて」とあきれられることもありましたが、認められるきっかけとなったのはある女の子の反応でした。

 彼女はどんなことをしてもほとんど表情の変わらない子でしたが、サンバの明るい音楽に合わせて一緒にマラカスを振っていたら自然と笑い始めたのです。これには上司もびっくりし、その年の9月から本格的にカリキュラムとしてサンバを取り入れることになりました。


―どのように活動を進めてきましたか。

 私が形から入るタイプなので(笑)、まずチームのシンボルマークと名前をみんなで決めて、男子は打楽器、女子はダンサーとして毎日練習を重ねました。

 サンバはバレエなど他のダンスに比べて自由度が高いのが特徴です。手を振ったり声を出したりするだけでもダンスになるし、楽器をたたけなくてもボタンを押して音を出すだけでも打楽器隊です。障がいがあるから参加できないと切り捨てず、参加できない要因を取り除くこと、例えば車椅子を変えるとか、ヘルパーを頼むとか…。その子にできることを探すことを大切にしています。


歌って踊って気持ちも開放 “できる”が自信に


―子どもたちの変化は?

 聴覚過敏の子もいたので、最初は逃げ出されるなど失敗もありました。でも回を重ねるうちに子どもたちの笑顔が増え、音楽が流れると自ら踊りだす子や練習する子が出てきました。「サンバの音楽を流してほしい」とお願いされたときには涙が止まらなかったです。みんなで少しずつ心を開きながら歌い踊り、体を開放していきました。

 ある脳性まひの男子高校生は、どんなにリハビリを重ねても、どんな最先端の治療を行ったとしても歩けるようにはならないことを知り、引きこもり状態になっていました。そんな彼でしたが、チームリーダーに任命しところ、少しずつ笑顔を取り戻し、発表会では司会を引き受けてくれるまでになったんです。

 

 同じく脳性まひの女子中学生は体が自由に動かせず泣いてばかりいました。でもサンバを始めて「もっと上手に踊りたい」と周囲に夢を語るようになりました。当初は「できるはずがない」と言っていた保護者も子どもの変化を喜び、子どもたちの可能性をより強く信じられるようになりました。

子どもたちだけでなく、わが子の障がいのことで気持ちが張り詰めている保護者にとっては“ガス抜き”の効果もあると感じています。

―サンバにはどのような効果があるのでしょうか。

 数あるダンスの中でもサンバというダンスには、どんな人をもエンパワメントしてしまう特徴があると感じています。サンバには負のイメージが一つも無く、自由に派手に、腰や足をリズムに乗せ、今から何をするのかを考えることなく、自然な表現や、表現の結果を雰囲気で楽しめます。全身を使って情動を明るく開放するため、開放的な体験が記憶として積み重なりやく、言語的なコミュニケーションができなくても、集団として成立しやすいという治療的な特徴を持っています。


「やってもらう」から「役に立ちたい」へ


―イベントにも参加されたそうですね。

 当初は身内だけで盛り上がっていました。障がいのある子とサンバという組み合わせが話題を呼び、地域の福祉まつりに「はびりジーニョ」として出演することができたんです。

 日ごろは障がい者という立場で“やってもらう”ことが多い子どもたちが、イベントへの出演を通して、「地域貢献したい」という思いを持つようになりました。

 出演を重ねる中で子どもたちも保護者もサンバを踊ることを誇りに思い、自尊心が高まっていると実感しています。
 


―今後の目標を。


那覇市で開催されたブラジルサンバダンスコンサートに参加した伊波さん。力強く華やかな踊りで観客を魅了した=2017年6月4日

 2017年1月に事務所が移転し、出張サンバは一時休止しています。今年中には体制を整え、再度、地域のイベントに出演したいと思っています。再活動が待ちきれず、運動会や学芸会など学校で子どもたちがサンバを踊るなど、自主的な活動も始まっています。

 私がいるからやるのではなく、彼らが自分たちだけでも踊り続けられる仕組みをつくりたい。そして、サンバを通して、もっと自分を好きになってほしいと思っています。

 最終的には、放課後児童デイサービス卒業後も、ブラジルのパゴージのように地域の公民館などで緩やかにつながりながら楽しむことができたらと考えています。

 そして、作業療法におけるサンバについても理論的に分析し、各地で共有できる体制を構築したいと考えています。
 



~ この記事を書いた人 ~


熊谷樹(くまがい・たつき)

 琉球新報社営業局。事業局開発事業部(当時)でイベントの企画運営に携わった後、編集局社会部、南部報道部、整理部などを経験。

 漫画と手芸が好きなインドア派でしたが、外遊びが好きな子どもたちのおかげで、体を動かすようになりました。

 娘とともにサンバなどのブラジルダンスを習っています。最近はサンバの打楽器隊(バテリア)にも興味津々です。





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