沖縄で大昔の化石が発見される理由 ◇人類のルーツに迫る 沖縄考古学探検〈1〉


沖縄で大昔の化石が発見される理由 ◇人類のルーツに迫る 沖縄考古学探検〈1〉
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 沖縄では近年、各地の発掘調査で大昔の人の骨や道具などが出土し新たな発見が相次いでいる。この機会に考古学に触れ、私たちのルーツを学ぶ“旅”に出かけてみよう。

 今年開館10周年を迎える県立博物館・美術館でまず学び、発掘調査の現場を訪れた。謎に迫ろうと調査を続ける苦労や、昔の生活、昔の人の姿に思いを巡らせながら見学してみては。

模型から昔のくらし想像
まずは県立博物館・美術館

 まずは、那覇市おもろまちの県立博物館・美術館で勉強しよう。同博物館の山崎真治さん(先史人類学、博士)に案内してもらった。博物館に入ってすぐ目に入るホールには、約2万前の港川人を中心に、同時代の動物の骨格模型が展示されている。リュウキュウジカは、現在のニホンジカに比べると、小さい。「沖縄は200万年前は大陸と陸続きでしたが、切り離されたことで、渡来してきたシカ類が小型化したようです。沖縄にはこうした固有の動物が多く生息しています」。

石灰岩のおかげ

 「沖縄は化石がたくさん見つかる場所」と山崎さん。それは沖縄の石灰岩のおかげ。大陸からの土砂が沖縄トラフ(海底の深い裂け目)によって遮られ、沖縄の周囲は透明度が高い海となり、サンゴ礁が発達した。多くの学術的発見は、沖縄の豊かな環境がもたらしたものの一つといえる。ホールには大きな石灰岩も展示されている。炭酸カルシウムを含むアルカリ性の石灰岩は骨の保存に適している。本土では火山灰が降り積もった酸性の土に骨が埋まっても長い年月をかけて溶けてしまう。

 「本土では旧石器時代の石器は見つかっていますが、人骨が見つかったのは1カ所。沖縄では20カ所くらい遺跡が見つかっていて、港川人のほか人骨が那覇市山下町(日本最古、約3万6千年前)のほか、宮古島、久米島、石垣島の白保などで見つかっている」。このように石灰岩のおかげで多くの歴史的発見につながっていることが分かる。
 

港川人の骨格と、同じ時代の地層から見つかった動物の骨。手前はヤンバルクイナ、右はリュウキュウジカ、左はリュウキュウムカシキョン=県立博物館・美術館

2つの模型比べて

 港川人を復元した模型は人気の展示。2つあって1つは2007年の開館時に制作、もう一つは2014年に制作。身長153センチ、肩幅がせまく上半身はきゃしゃだが下半身はしっかりしていて、よく歩いていたとみられる。2つとも身体的特徴は同じ。最初に作られたものは、縄文人につながったと考えられていたので日本人的な顔立ち。新しい方は、その後の研究で明らかになった要素を加え顔つきが変化。オーストラリアやパプアニューギニアの人と同じ南方系の顔立ちで、奥目で鼻がより丸みを帯びている。2つの違いを比べると面白い。

沖縄の自然に関する展示も数多くある。奥にいるのは…!
港川人の2つの模型。見比べてみよう。だれかに似てるかな?

 八重瀬町の港川遺跡で見つかった港川人の骨のレプリカを4体分展示している。1号が男性、2~4号は女性。高さ20メートルほどの崖の割れ目の底の方で見つかった。山崎さんは「転落説もあったが、儀礼的な意味でここに葬られたのではないか」と話す。これら港川人が約2万年前で、次に人がいた証拠が現れるのは7千~8千年前。この間が空白となっている。

「釣る意欲」示す先端

サキタリ洞遺跡で見つかった約2万3千年前の貝製の釣針=県立博物館・美術館

 南城市のサキタリ洞遺跡で見つかった約2万年前の貝の道具も見ることができる。中でも釣針は推定2万3千年前のもので「世界最古の釣針」と話題になった。きれいに先がとがっている。山崎さんは「非常に精巧にできています。固い貝を加工するのは難しく、相当な労力をかけたはず」と話す。貝製の釣針は日本では珍しく、沖縄や奄美でしか見つかっていない。

 山崎さんは「模型などを見てルーツを知るきっかけにしてもらいたい。今の物と比較して考えてみるのも面白い」と博物館の楽しみ方を教えてくれた。

 それ以外にも琉球王朝時代の資料など、沖縄の歴史や自然全般について学べることがたくさんある。各地の遺跡やグスクなどを見る前に訪れると、さらに理解も深まるだろう。県内小中学生の常設展観覧料は無料となっており、何度来ても新しい発見があるはず。
 

沖縄県那覇市おもろまち3-1-1
(電話)098(941)8200

9時~18時(金・土は20時まで)
入館は閉館30分前まで

休館 月曜、その他

博物館常設展の観覧料金

大人410円
高校・大学生260円
県外小中学生150円
県内小中学生、70歳以上無料

博物館バックヤードツアー

毎月第4土曜日 14時~15時
定員12人(当日先着、9時から総合案内で受付)
参加費無料

好条件重なり多くの出土品
サキタリ洞遺跡にて

手前右側と、奥の右手で発掘調査が行われているサキタリ洞遺跡。「ガンガラーの谷」の入り口でカフェになっている

 次に山崎さんに案内してもらったのは、県立博物館・美術館による発掘調査が2009年から行われている南城市のサキタリ洞遺跡。「ガンガラーの谷」の入り口にあたり、カフェとなっている。くつろいでいる人々の側で、発掘調査が行われている。

 かつては玉泉洞まで一連の大きな洞窟だったという。内部を川が流れていたが、天井の一部が崩れて開口し、川の流れが変わって乾燥し、人が訪れるようになってきたとされている。「サキタリ洞は古い洞窟で、鍾乳石の成長はほとんど止まっている」(山崎さん)。

 洞内に2カ所調査区がある。入り口に近い調査区2は、一番上の地層でグスク時代、琉球王国時代の焼き物などが出土し、その下は縄文時代の地層で約2千年前~5千年前の土器が出土、その下から9千年前の土器、さらにその下の層からは埋葬されたとみられる人骨が見つかっている。山崎さんによると「いろんな時代のものが一カ所から見つかる珍しい所」だ。

 貝製の釣針が見つかったのはカフェの奥にある調査区1。鎖で囲われて近づけないが、有料のガイドツアーでは近くを通る。約2万年前の黒い地層があり、そこから貝を使った道具が出土している。黒いのは炭のかけらで、人が火を使ってできたとみられる。このあたりではモクズガニの殻がたくさん見つかっている。

発掘調査区1。写真左上の黒い層から貝の釣針が出土した=2016年

 「海で産卵し、川をさかのぼって陸で成長するカニ。この辺りは秋口に産卵のために川を下るカニが集まるところで、近くの集落でもカニグヮーガマといわれてカニを捕りに来たらしい。旧石器時代の人も同じようにカニを捕っていたのかもしれない。上海ガニと同じ仲間で大変おいしいです」。3万年前の人骨も見つかった。発掘調査はまだまだ続いていて、新たな発見に期待が高まる。

 山崎さんは「洞窟では、場所柄、ものが流れ込んできて、外に流れ出ることなく堆積していく。石灰岩なので骨や貝も溶けずに残る。そんな条件が重なって幅広い年代の出土品がある」と説明する。さらに「学術的な意味でも重要であり、普及にも活用されている貴重な場所」と指摘している。

サキタリ洞遺跡(「ガンガラーの谷」内)

沖縄県南城市玉城前川202

ガンガラーの谷ガイドツアー

毎日10時、12時、14時、16時の4回。
各定員20人。
ケイブカフェからおきなわワールドまでの約80分のコース。
料金2200円(保護者同伴の中学生以下無料)、高・専門・大学生1700円
予約受付・問い合わせ
(電話)098(948)4192(9時~18時)

ケイブカフェ

洞窟を利用したカフェでコーヒーやアイスを。
9時~18時(ラストオーダー17時半)

※イベントやパーティーが行われる場合は、ツアーやカフェの営業変更もある。ホームページやスタッフブログで確認を。
 

(2017年4月22日 琉球新報ゴールデンウイーク特集掲載)