投資家に選ばれる これからのビジネスとは ~投資家・白石智哉さんに聞く〈上〉

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〝ハゲタカ〟的なイメージすらあった「投資業」に変化が生まれている。利益や収益性よりも、「将来、社会がよくなること」を最優先するベンチャーフィランソロピー(VP)という新しい投資が始まっているからだ。子育て支援や教育、地域コミュニティーの発展など、短期間では成果が見えにくい社会課題に立ち向かう組織や起業家をサポートする仕組みがなぜ注目を集めているのか。日本で初めてVPの運用を本格的に始めた「ソーシャル・インベストメント・パートナーズ(SIP)」共同代表理事の白石智哉さん(54)に、その意義や可能性を聞いた。

◇聞き手・佐藤ひろこ(琉球新報Style編集部)


沖縄で開かれた人材育成イベントRyukyufrogs LEAP DAYのスペシャルゲストとして登壇した白石智哉さん=2017年12月、沖縄県西原町のさわふじ未来ホール

未来を拓くために何ができるのか―。新興企業から成熟段階まで多くの企業に投資し国内外で活躍してきた白石さんは2012年11月、同じ志を抱く仲間と共に、社会性の高い事業に資金提供と経営支援を行う一般社団法人ソーシャル・インベストメント・パートナーズ(SIP  http://sipartners.org/を立ち上げた。13年4月には「日本ベンチャー・フィランソロピー基金」を設立し、社会課題の解決を目指す起業家や団体の支援を始めている。
 


資金提供と経営支援を行う「ベンチャーフィランソロピー」


べンチャーフィランソロピーとは、簡単に言えば新しい投資や寄付のあり方です。一般的な投資では3~5年で利益を回収しなきゃいけない。でも社会には短期間では成果が出ないが、続けることで社会の役に立つ事業はたくさんあります。例えば、待機児童問題の解消や、子どもの安全安心のための環境づくり、女性が出産後も仕事を辞めずに活躍できるための仕組みづくりなどは、成果といっても「社会の状態がどう変わるか」なので、次の世代になるまで10年~15年と時間が掛かります。

その究極の長期的なお金の使い方が税金でしょう。ただ、税金の場合はお金の使われ方は分かっても「将来の成果」に対する評価は分かりにくい。それを投資的な手法や観点から「成果を見える化する」のがベンチャーフィランソロピーです。お金を支援するだけでなく事業の〝伴走者〟として事業計画を一緒に作ったり提携相手を探したり、経営そのものもお手伝いします。


収益ではなく「社会がどう変わるか」を重視


ベンチャーフィランソロピーと類似の投資手法に「インパクト投資」があります。両方とも「未来への投資」であり、社会課題の解決を目指す「社会的投資」です。共通するのは「インパクト」(=将来の社会に対する影響度)を重視するところです。違いは、インパクト投資では経済的なリターン(収益)も一定程度求めるのに対し、ベンチャーフィランソロピーではインパクトを最優先することです。

その事業が社会にどのぐらい貢献しているかどうかは、売り上げや利益だけでは測れません。お金を払ってくれるお客様と受益者は必ずしもイコールではない。恩恵を受ける人がどこにいて、いかにその人数が増えていくか、その人たちの生活の質がどう上がり、数年後に社会がどんな状態になるか、という観点で成果を見ていこうよ、というのがベンチャーフィランソロピーです。


東日本大震災をきっかけに


「ソーシャル・インベストメント・パートナーズ(SIP)」を設立したきっかけは2011年の東日本大震災です。震災後、個人的にボランティアに関わったこともあり、東北にお金を出したいと思いました。震災から少し時間が経つと、被害に遭ったけれどまた起業したいという人や、ボランティアで来ていた県外の若者で起業を志す人が出てきた。すると、その思いに応えられるお金や経営支援が必要ですが、うまくマッチするものがなかった。

「お金に色はない」とよく言われますが、僕は「お金には色がある」と思っています。どんな目的で、どんな思いが込められているのか、お金には確かに種類があります。僕はずっと金融の仕事に携わっていたので「ないなら、つくればいい」と思ったんです。

欧米では既に「インパクト投資」や「ベンチャーフィランソロピー」という名前が付いている資金提供手法があり、僕の同僚や先輩のベンチャーキャピタリストたちの中には次のキャリアとして活動を始めている人がいた。僕がベンチャーキャピタルを始めた30年前には、日本にはベンチャーキャピタルはほとんどなかった。でも今はあるわけですから、ベンチャーフィランソロピーも日本にもあっていいはずだと思い、同じ志を持つ投資経験者や企業経営者と約1年かけて議論を重ね、「パイロットケースを作ろう」とSIPを立ち上げました。


ベンチャーフィランソロピーの意義や可能性について語る白石智哉さん=2017年12月、那覇市の琉球新報社

社会のしくみをデザインする


最初に支援したのが、子どもたちの放課後の居場所づくりを行う特定非営利活動法人「放課後NPOアフタースクール(https://npoafterschool.org/)」(東京都)です。民間事業者が公立学校の中に入っていくのはとてもハードルが高い。だから、最初に支援したときには私立しかありませんでした。①学校の中で実施する ②地域の大人を巻き込む ③企業を巻き込む ―ことを軸に運営しながら、結果として4年たって3校から16校に増えました。そのうち6校は公立です。利用者数が延べ15万人。スケール的には4年間で10倍になった。また、既存の学童施設10カ所の運営の業務委託を受けるなど広がっています。結果として売上高も4千万円から4億円に伸び、団体として自走できるレベルになったのでファンドを卒業していただきました。

他には、子育てシェアなどに取り組む株式会社AsMama(アズママ)(http://www.asmama.co.jp/)など、子育てや次世代育成に関わる事業をサポートすることが多いです。
 


補助金との違いは「時間軸・金額・使い方」


行政の補助金や助成金は単年度ごとで、金額も小さく、用途も「備品を買う」「報告書を作る」など制限があります。補助金とベンチャーフィランソロピーとの違いは、通常3~5年程度の中長期的な支援をすることです。二つ目は、金額の違いです。私たちは1件あたり3千万円から5千万円ぐらい提供します。三つ目は、目的を限定しない先行投資的なお金を出すところです。
 


「地域や社会をよくしたい」×投資=ベンチャーフィランソロピー


日本の企業はCSRなどの観点で多額の寄付をしています。個人レベルでは「互助会」や「結」など、地域コミュニティーで支え合う土壌もあります。例えば、神社に奉納して名前を掲げてもらうというのは、今で言うクラウドファンディングですよね。

みんなでお金を出し合って支え合おうという仕組みは既にあった。それにテクノロジーを掛けたのがクラウドファンディング。僕たちのように「投資」を掛け合わせているのがベンチャーフィランソロピーです。違うのは、寄付するだけじゃなく、事業を共に支え、社会での成果を「見える化する」ことです。
 


「SDGs」が世界的な指標に


「社会にとって良いこと」への投資を下支えする世界的な指標が2016年にできました。国連が示した「持続可能な開発目標(SDGs)=SUSTSINABLE DEVELOPMENT GOALS」です。貧困や飢餓をなくし、人権や平和を守ることなど「世界を変えるための17の目標」が示されています。投資家も銀行も、その指標で投資の基準を測ろう、というのが世界的な潮流です。投資家も銀行も、SDGsに配慮した企業を投資の対象にするという考え方が浸透しつつあります。


SDGsが一目で分かるロゴ(国際連合広報センターのHPより)

投資家というと「ハゲタカ」のイメージがありませんか? 僕は実際に、会社をつぶして儲ける投資家から、経営者と企業を買い戻したことがあります。その投資家は短期間で投資利益を最大化するために、人件費や開発費を削減し、新規の営業開拓すら全くストップさせていました。だが、それでは良い雇用は生まれず社会は衰退します。

SDGsの指標でいうと、会社をつぶして儲ける投資はNGになります。いくら儲かるとしてもSDGsに反する事業には投資しないという投資基準が世界の趨勢になっています。また、公害、環境問題、軍需産業、児童労働などのネガティブチェックのみならず。本業を通じていかに社会に役立っているかという「インパクト評価」という考えも出てきていて、「女性を活躍させている企業か」「良質な雇用を生んでいるか」なども評価基準になっています。


「社会をよくする」が認められる時代に


面白いことに、社会的にいいインパクトを生む企業や組織の方が成長率やリターンが高いと、投資家も気付き始めた。そして投資家も銀行も、SDGsの指標で投資先を選んでいるか、投資の結果がどうなっているか、開示しなきゃいけなくなってきた。「ハゲタカ」的に会社をつぶすような投資家は排除されていく時代になってきたんです。

企業のCSRもこれから変わってくると思います。単純に「寄付しています」ではなくて、本業そのもので社会の役に立っているかどうか問われるようになってきます。「売り上げが上がればいい」ではない。その考え方の共通言語となるのがSDGsなのです。

 

~ 「SDGs(SUSTSINABLE DEVELOPMENT GOALS )」とは ~

持続可能な開発目標(SDGs)、通称「グローバル・ゴールズ」。貧困に終止符を打ち、地球を保護し、全ての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを目指すために示された17の行動指針。詳しくは国際連合広報センターのサイト(http://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/で確認できる。

 

〈下〉は1月16日に公開します。

白石 智哉(しらいし・ともや/フロネシス・パートナーズ株式会社 代表取締役 CEO/CIO)

1980年代から一貫してプライベート・エクイティ投資に従事。企業の潜在力を引き出し持続的な成長をはかる「成長型投資」を基本戦略として、日・米・アジアにおいて豊富な投資実績をもつ。(株)ジャフコで事業投資本部長を務めたのち、2009年まで欧州系投資会社ペルミラ (Permira)の日本代表を務めた。東日本大震災以降、被災地企業への財務・経営支援を行い、2012年に日本初の本格的ベンチャー・フィランソロピー組織であるソーシャル・インベストメント・パートナーズ (SIP)を設立、社会事業の育成支援を行う。2014年より中小企業向け投資育成会社フロネシス・パートナーズの代表取締役を務める。

SIPと日本財団が共同運営する日本ベンチャー・フィランソロピー基金 (JVPF)の選定委員。G8インパクト投資タスクフォース国内諮問委員。放課後NPOアフタースクール理事。1986年一橋大学法学部卒。

 



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