結成2年でサマソニに!名護発「ひぇあふぉう」の素顔に迫る


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左からヨシキ、たいらーん、たくま

わずか2年前、沖縄・名護の片隅でひっそりと生まれたバンドが驚異的なスピードで成長を遂げ、沖縄の音楽シーンを騒がせている。たいらーん、ヨシキ、たくまの3人で結成したバンド「ひぇあふぉう」。2017年にはTOTALFATやTHE FOREVER YOUNGEなどメジャーアーティストの沖縄公演でサポートアクトを務め、日本最大のロックフェス「SUMMER SONIC」への出演も果たした。活動の幅を広げ続ける21歳の3人組に結成秘話や飛躍の年となった2017年のエピソード、現在の心境を聞いた。

◇聞き手・野添侑麻(イベンター)

観客からバンドマンへ

―さっそくですが、3人の担当パートを含めた自己紹介をお願いします。
 

たいらーん

「たいらーんです。ベースボーカルとリーダーを担当しています」
 

ヨシキ

「ギターボーカルを担当しています。ヨシキです」
 

たくま

「ドラムを担当しています。たくまです。このバンドは3人とも同級生で平成7年生まれの21歳です」
 

―結成のきっかけを教えてください。
 

たいらーん

きっかけは、ライブハウスで知り合った3人の音楽仲間でロコビッチ※1っていう沖縄のバンドを観に行ったことです。あまりにもカッコよくて感動しまくって、その場の勢いでバンドを結成したんです。『こんなカッコいいバンドになりてー!』みたいな(笑)。それが2015年3月の話です。当初はヨシキがいなくて、僕とたくま、そしてギターボーカルの女の子っていう3人でした。全員北部に住んでいたこともあって、名護を中心に活動していました
 

―それぞれ音楽活動の経験はあったんですか?

たくま

「全員それぞれ別に音楽活動はしていました。僕と女の子が同じ高校で、遊び感覚で一緒にバンドをやっていました」
 

たいらーん

「僕は小学校の頃、鍵盤ハーモニカが好きで家にはピアノがあったので、自然と楽器を触っていました。曲を作り始めたのはこのバンドになってからですね」
 

ヨシキ

「中学校からギターを初めて、バンドを始めたのは高校からです」

空中分解と再出発

―結成当初はどんな活動をされていたんですか?
 

たいらーん

「当時は遊びの延長線で活動していました。そこまで本腰を入れずにロコビッチのコピーバンドをしていました。僕も当時はボーカルではなくて、女の子がメインボーカルを務めていました」
 

たくま

「当初は遊び半分でやっていたんですけど、那覇で開催されたヤマハミュージックレボリューションという大会で優勝したことで、これからのバンド活動について深く考えることになりました」
 

たいらーん

「その大会も『那覇のライブハウスで思い出づくりのライブをしよう』っていう気軽な気持ちでエントリーしたんですけど…」

ヨシキ

「そのころ僕は別のバンドを組んでいて、同じ大会にエントリーしていたんです」
 

たいらーん

「優勝したことで九州大会に派遣されて福岡にライブしにいったんです。その時に僕とたくまのやる気スイッチが完全に入ったんです。『本気でバンド活動に取り組みたい』って。福岡から帰ってきて今後の活動について話し合いました」
 

たくま

「僕とたいらーんは、本腰を入れてやっていきたいという気持ちで固まっていた。でもボーカルの子とは目指す方向性に違いが出てしまって…。結局その子がバンドを離れ、活動がいったん止まってしまったんです」
 

ヨシキ

「ちょうどその頃、僕も一緒に組んでいたメンバーとの間に、気持ちの面で違いが生じてしまって解散することになったんです。本気でバンドに打ち込みたいのに仲間を失ってしまった。どうしようかと悩んでいた時に、たいらーんから『ひぇあふぉうの活動のサポートメンバーとして手伝ってほしい』という話がきたので、二つ返事でOKしました」
 

―「バンドに力を入れたいのに動けない」境遇だった3人が合流して、新体制になったんですね。お互いの状況は知っていたんですか?
 

ヨシキ

「実はお互いのバンドの状況を、よく相談し合っていたんです。解散でつらい思いをしているタイミングで誘いがあったので、自分がこのバンドに必要とされていると感じて嬉しかった。最終的に加入を決めたのは『本気で音楽に取り組んでいきたい』っていう思いが合致していたからです」
 

たくま

「初めて3人でスタジオに入った日の感覚が、もの凄く良かったんです。僕とたいらーんの中では『抜けた穴はヨシキしか埋められない』って思っていた。でも、まずは〝お試し期間〟としてサポートメンバーに入ってもらってから、正式メンバーになってもらえるか考えてもらおうと思っていたんですけど…(笑)」
 

たいらーん

「サポートで入ってもらった2回目のライブで、ヨシキの口から『俺たちひぇあふぉうでーす!』って言っちゃうくらいのめり込んじゃって(笑)。気付けばいつの間にか正式メンバーになっていました(笑)。それが2016年12月ごろの話です」
 

CDリリース、レギュラー番組、そしてサマソニへ

―ヨシキさんの加入後、一気にひぇあふぉうが飛躍しました。特に2017年は大きな動きが立て続けにありました。この1年の活動秘話を教えてください。最初の転機はCDのリリースでしょうか?
 

たいらーん

「そうですね。2016年の終わりに沖縄限定でCDをリリースをしました。ありがたいことに主要レコード店などで大きく取り上げてもらいました。その作品をきっかけにFM沖縄さんの『Radio dub』の2017年正月特番で『今年活躍しそうなアーティスト』としてゲストに呼んでいただきました」

「そこから番組内で定期的に曲をかけてもらい、2017年3月には『レギュラーとして番組に出演してくれないか』というお話をもらいました。昔から聴いていた憧れの番組にレギュラーとして出演できるなんて考えてもいなかったのでビックリしました」
 

―そして2017年夏には、激しい地方予選を勝ち抜いて、国内屈指の音楽フェス〝サマソニ〟こと『SUMMER SONIC』※2に出演を果たしました

ヨシキ

「たまたま出演したライブのスタッフさんに、『今度サマソニのオーディションが沖縄であるんだけど出てみない?』と誘われたのがきっかけです。地方予選を勝ち抜いたら、東京である最終ライブ審査に出て、そこからサマソニ出演者が決定するっていう話でした。サマソニに出演できるなんて微塵にも思っていなかったんで、『東京でライブすること』を目標にオーディションにエントリーしたんです」
 

たいらーん

「いつも俺たち、オーディションに対する目標が低いよね(笑)」
 

ヨシキ

「でも、その地方予選でものすごく不甲斐ないライブをしてしまったんです。お客さんは入れずに審査員さんだけの空間で、机と椅子を並べた面接みたいな感じの雰囲気に飲まれてしまい、緊張してしまって…」
 

たくま

「手応えもゼロだったので東京行きは諦めていたんですけど、奇跡的に通過できました」

「東京での最終予選に参加できると決まったからには、絶対にサマソニ出演枠を勝ち取るって意気込んでオーディションに挑みました。持っている力を全て出し尽くし、無事にサマソニ出演が決まったんです」
 

―日本屈指のロックフェスに出演してみていかがでしたか?
 

たくま

「いやぁ…もう…、めちゃくちゃ楽しすぎました(笑)。あんなに沢山の人たちの前でライブができるのが、楽しすぎて楽しすぎて!」
 

ヨシキ

「そもそも沖縄県外のフェスに行ったことがなかったんで、出番の後はいろんなアーティストのライブを観ることができて、超絶楽しかったです(笑)」
 

「バンドって、夢がある」

―激動の2017年を振り返ってみての感想は?
 

たくま

「新しい話がどんどんきて、いろんな経験を重ねることができました。いまだに頭の中では、現状に追いつかない部分もあります。それくらい充実した1年でした」
 

ヨシキ

「去年は昔から好きだったバンドの方たちと一緒にライブをする機会がとても多くて、『音楽って、バンドって、夢があるな』と痛感した1年でした。それこそサマソニで観ていたバンドから『沖縄で一緒にライブをやらないか』っていう誘いもあり感激しました。バンドって凄いです。だからこそ気も引き締まるし、活動を重ねる度にやる気も高まっていくんです」
 

―経験を重ねたことで、ライブに対する姿勢や演奏の仕方、見せ方など、変化はありましたか?
 

たくま

「ライブへの取り組み方は大きく変わりました」
 

ヨシキ

「活動を重ねていく上で、自然と変わっていった感じはあるかもしれないです」
 

たいらーん

「それこそフェスのような大きいステージに立たせてもらったり、好きだったバンドと同じステージでやる機会が増えたりして、そんな人たちの演奏を近いところで見て『かっこいい!俺もこうなりたい!』と、より一層強く感じることができた年でした。そんな思いが自然と自分たちのライブに反映されていったのかもしれません」
 

ヨシキ

「良い刺激を受けながら、より良いライブの形にしていこうと頑張っています。特にたいらーんは、外からの刺激を受けたら吸収して自分の形にするまでのアウトプットがとても早いので、ボーカルとしてこれからも進化しつづけていくと思います」
 

たくま

「自分たちを取り巻く環境も、自分たちの音楽に対する姿勢も、いろんな状況が変わっていった1年でしたね」
 

たいらーん

「目まぐるしい1年だったね。俺たちだけじゃなくて周りの人の自分たちに対する見方も変わっていった年になりました」
 

ヨシキ

「1年半前まではCDをリリースするとも思っていなかったし、ラジオ番組を持つなんてことも考えていなかったし、サマソニに出演するなんて想像もしていなかった。それが一気に叶ったので、自分たちのことだけど他人ごとに思えてしまったこともありました」
 

写真提供:やーさ

プレッシャーをエネルギーに変えて

―順風満帆に見える活動ですが、2017年末のライブでたいらーんが「この1年音楽に向き合うことが怖くて、何度も音楽を辞めようと思っていた」と話していたことが印象的でした。なぜそう思ったんですか?
 

たいらーん

「なりたい自分と今の自分のギャップに苦しんだり、大きいステージに立つ機会が増えてきたのに、この流れが途切れてしまったらどうしようっていう漠然とした焦りだったり…。同世代のバンド仲間たちも大きい動きをしていたので、自分と比べて焦ったり…。常に音楽のことを考えていたので、楽しかったはずのバンドから逃げたいって思ってしまった自分がいたんです」
 

―たくまさん、ヨシキさんは、どんな心境でしたか?
 

ヨシキ

「『サマソニ出演』で精神的に大きく成長できたと思っています。サマソニの前と後では、客席の反応も明らかに違うのが感じ取れた。ライブで初見のお客さんも増えてきました。どんなものかと思って観にきた人の中には、楽しんでくれている人もいれば、ライブの途中で帰っちゃう人もいました。評価される対象になったんだなと実感しました。でもそのプレッシャーを越えるエネルギーでライブに取り組むようにしました」
 

たくま

「沖縄県外でライブをする時には、知らないところで、知らない人たちに見られるっていう怖さがありました。音楽一つで評価されることに慣れるのに時間が掛かりました」
 

たいらーん

「音楽との向き合い方に苦しんだ1年でもあったけど、『持っている力で勝負できる』という面白さにも改めて気付かされました。誰も知らないところでやるからこそ、ファーストインパクトで勝負できる。ライブが盛り上がれば力が付いてきているって判断もできるし。素直なリアクションが返ってくるので、率直な評価が感じ取れるのも面白いですね」
 

「音楽の前では素直でいよう」

―そんな苦しみや葛藤も越えて完成した新曲の「灯」。この曲を聴いて、僕はちょっとした変化を感じました。今までのひぇあふぉうの曲は、劣等感をエネルギーにして自分自身の成長に繋げる「自分にベクトルを向けた曲」が多かったけど、この曲では初めて他者にベクトルを向けてメッセージを発信しているのかなって思ったんです。
 

たいらーん

「その通りですね。激動の1年を通して僕が決意したことは、『せめて音楽の前だけでは素直でいよう』っていうこと。本当の自分は恥ずかしがり屋だし、気持ちを素直に表現するのも得意じゃない。でも、せめて大好きな音楽の前だけでは素直でいようと思い始めてから作った最初の曲です。僕の心を表現した一番素直な曲ですね(笑)」

「今までは、自分の思いや気持ちを歌にするのはなんだか恥ずかしくて、自分を着飾っているところがありました。けれどこの『灯』では自分の言いたいこと、伝えたいことを全て詰め込もうと思って作った曲です」
 

ヨシキ

「今までになかったタイプの曲で、びっくりしました。たいらーんが相当悩んでいた時に作っていた曲なんで、その分の想いが詰まっているんだと思いながら、曲を仕上げていきました」
 

―そして2018年の始めには初のワンマンライブを成功させました。
 

たいらーん

「これまでのライブとの違いを出すために工夫を重ね、新曲も作って、集客活動もやりました。直近の12月には先輩のP-famがワンマンライブを成功させていたし、そのプレッシャーに負けないように気持ちの面でも成長できました」

ヨシキ

「結果的に満員のお客さんに来てもらえました。初挑戦の弾き語りコーナーも入れて、内容面でも充実できた。せっかくのワンマンライブだから、普段できないことにも挑戦して、自分たちが一番楽しもうっていう思いで取り組みました」
 

写真提供:やーさ

原点を大事に、より上へ

―2017年の経験と成長を詰め込んだワンマンライブ。あの日を境にひぇあふぉう第2章が始まったと感じます。これからの目標を聴かせてください!
 

たいらーん

「県内外のいろんなフェスに出演したいです! 今年は尊敬しているMONGOL 800が主催するWhat a Wonderful World!!※3が開催されるので、そこに出演できるように頑張りたいと思っています!」
 

―「WWW!!」がある年は県内アーティストの気合が一層入ります。沖縄の音楽シーンがさらに盛り上がる年になると思うので楽しみです。
 

たいらーん

「確かに…。みんな出演したいですもんね(笑)。後輩のバンドも積極的に動いているので、ライバルは多いと思っています」
 

ヨシキ

「僕の目標は、原点を大事にすること。昨年はガラリと環境が変わって、気持ちの上がり下がりもあったんですけど、再結成の時に誓った『より上を目指していく』っていう気持ちを常に持ちながらやっていくこと。この気持ちを大事にして活動を続けていきたいです。個人的な目標としては、ワンマンの時にやった弾き語りに力を入れていきたいです。1人で路上ライブをしたり、弾き語り企画に出演したりして歌力を磨いていく1年にしたいです」
 

たくま

「自分自身のレベルアップに努める1年にしたい。2人に比べて実力が伴っていないと感じるので、この先のひぇあふぉうの飛躍には自分のレベルアップが欠かせないと思っています。ドラムの腕だけじゃなく、作曲にも精力的に取り組んでいきたいです」
 

たいらーん

「それと最後に…僕はもっと外に目を向けていく年にしたい。去年までは自分のことで手いっぱいでした。今年は県外に足を伸ばしていろんな人と話したり、ライブをしたり、吸収する1年にしたいです」
 

写真提供:やーさ

〈インタビュー後記〉

ひぇあふぉうは『夢を現実』に変えていく不思議な力を持っている。

彼らがまだ名護を中心に活動していた時のこと、ボーカルのたいらーんから、県外のある人気バンドのカッコよさについて熱弁されたことがある。「絶対に彼らと同じステージに立ってみせます」。そう言い放った3カ月後には共演が決まった。そのライブを境に、彼らは凄い勢いで夢を叶え続けてきた。

アニメのヒーローが必ず兼ね備えている「人を魅了して、周りを巻き込んで味方を増やしていく」というチカラ。ひぇあふぉうはこの能力を持っていると思う。ライブを通して、バンド仲間、関係者、観客のみんなを取り込んで、巻き込んでいく。不器用ながらも愚直に音楽に向き合う彼らの成長を見守りたいと誰もが思ってしまう。少し頼りないところはあるけれど、彼らの成長を自分に重ねて応援したくなる不思議な魅力を持った若きロックヒーローたち。これからの物語も、きっと僕たちをワクワクさせてくれることだろう。

 


※1 ロコビッチ沖縄発シンガー。2006年結成。2013年からは東京に拠点を移し、精力的な活動を続ける。

※2 SUMMER SONIC2000年にスタートした都市型ロックフェスティバル。千葉と大阪の2会場で2日間にわたって開催される。

※3 What a Wonderful World!!沖縄県で開催されるMONGOL800主催のロックフェスティバル。2年おきに開催される。
 

― ひぇあふぉう ―

沖縄県名護市発。混ざらなかったメロディックミクスチャーバンド。
たいらーん(Vo.B)、ヨシキ(Vo,Gt)、たくま(Dr)の3人で結成。

~ ひぇあふぉう オフィシャルTwitter ~ https://twitter.com/herefor__/

― メンバーTwitter ―

たいらーん https://twitter.com/HereFor_BaVo
ヨシキ https://twitter.com/69_ysk
たくま https://twitter.com/HereFor_Dr_Vo

 

~ ひぇあふぉう Live Info ~

2月24日 『オモイトランス 2マン武者修行』@桜坂セントラル

3月3日 『SCHOOL OF ROCK Tour Final』@北谷MOD’S

聞き手・野添侑麻(のぞえ・ゆうま)

音楽と湯の町別府と川崎フロンターレを愛する92年生。18歳からロックフェス企画制作を始め、今は沖縄にて音楽と関わる日々。大好きなカルチャーを作っている人たちを発信できるきっかけになれるよう日々模索中。沖縄市比屋根出身。