信じたい情報だからこそ疑う モバプリの知っ得![78]


この記事を書いた人 稲嶺 盛裕

今月17日、歌手の沢田研二さんがさいたまスーパーアリーナで予定していたコンサートを開演直前になってキャンセルをしたことが話題になっています。
珍しい出来事の上、中止になった理由を「契約上の問題が発生したため」としたため、様々な「憶測」が飛び交いました。

そうした中で、Twitter上などで「中止の理由は反原発(原子力発電)の署名を行おうとしたから」とした不確かな情報が拡散。
周辺に飛び火し、バッシング合戦になりました。
所属事務所は20日、「反原発署名説」を否定。
結局、間違った情報だったことが分かりました。

伝言ゲームと化したTwitter

ことの発端は、あるTwitterに投稿された何気ないつぶやきでした。

“ 沢田研二たまアリの件、ジュリー信者(※筆者注 沢田研二の熱心なファン)の母に聞いたら原因が一発解明。原発反対の署名をホール内でやろうとしてたらしい。(横アリは実施、NHK武道館はNGくらったとか何とか) ” 

17日夕方の報道直後に投稿されたこのつぶやきは、瞬く間に拡散。
元の投稿を見ると「母に聞いたら」「やろうとしていたらしい」とした表現で、非常に曖昧かつ信憑性に欠けるものでした。

Twitter上では拡散される中で「反原発署名でコンサート中止にした沢田研二だけど〜」などと、あたかも中止理由が確定的なようなものに変化していきました。

曖昧な口調から断定する口調への返答。さらには多くの人が拡散しているのを見て「中止理由はこれだったんだな」と思い込んだ人も多いと思います。
またテレビでの報道を見て「なぜ反原発の署名が中止の理由と言うことを伝えないんだ」と、メディア批判にいそしむ人もいました。(事実ではない、裏が取れてないので報道されないのは当たり前ですが)

こうしてネット上で広がった誤った情報は、次第に自分が気に入らない相手をバッシングするための材料として使われています。
 

信じたい情報だからこそ警戒する

イラスト・小谷茶(こたにてぃー)

大元はアーティストのコンサート中止報道でしたが「反原発署名」という言葉が飛び出し、議論の流れは大きく変わります。

2011年の福島第一原発の事故以降、反原発運動が活発化してきました。
また、それに伴う「反・反原発運動」といった人たちも現れました。

今回も「反原発署名で中止」という誤った情報を元に、

「会場は東京電力が株主になっているから反原発署名を許さなかったんだ」(注:過去に株主だった時期があったようですが現在は株主ではない)といった意見や、

あるいは「反原発の署名がしたくてコンサート中止とか頭おかしい」などの意見が飛び出し、叩きたい相手を叩くためだけに話題が消費されていきます。

電力や原発問題に関しては、丁寧な議論が必要です。

電気がないと冷暖房が使えず、人の生き死にに直結しますし、産業もダメになります。
その一方で、原発ごとは事故発生時のリスクが大きすぎるため、一部「地域」の問題にせず、国民全体で考える必要があります。

こうした丁寧な議論が求められる問題で、間違った情報をもとに「相手陣営」を叩く行為は、前に進むことを邪魔する本当に迷惑な行為です。

自分が信じたい情報、自分にとって都合がいい情報はすぐに飛びつき、信じたくなるものです。

例えば私だって、根拠のある「太っていると健康に悪い」という情報よりも、根拠のない「ポッチャリ男子がモテモテ!」みたいな情報の方を信じたくはなります。
その方が圧倒的に自分にとって都合がいいからです。

「体型」というパーソナルな問題よりも、意見が分かれるからこそ丁寧に議論する必要のある社会問題の方が、慎重になる必要があるのは言わずもがなです。

日々、様々な情報に触れる現代社会ですが、自分に都合のいい情報こそ、疑い、慎重に取り扱う必要があります。

 琉球新報が毎週日曜日に発行している小中学生新聞「りゅうPON!」10月28日付けでも同じテーマを子ども向けに書いています。

 親子でりゅうPON!と琉球新報style、2つ合わせて、ネット・スマホとの付き合い方を考えるきっかけになればうれしいです。

【プロフィル】

 モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。

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