琉球王朝時代の味を受け継ぐ 玉那覇味噌醤油


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160年以上続く伝統の味噌造り

工場内部では、蒸してつぶした大豆に自家製の麹(こうじ)と県産塩を混ぜる作業が行われていた。麹はうっすらと黄色味がかかっている 写真・村山望

明治維新よりも前の安政年代(1855~60)、最後の琉球国王・尚泰王の治世下に創業した玉那覇味噌醤油。厚さ3尺余(約90センチ)の重厚な石垣に囲まれた首里大中町の工場で、食品添加物・化学調味料未使用、厳選された丸大豆、自家製の麹(こうじ)、天然塩のみを使った伝統的な味噌造りを続けている。5代目当主である玉那覇有紀(ありのり)さん(87)に、明治時代から使用しているという木樽の並ぶ工場を案内してもらった。

首里城から龍潭を抜け、かつては石畳だった安谷川平(あだにがーびら)と呼ばれる坂道を下っていくと、蔦(ツタ)に覆われた長い石垣が見えてくる。石垣は、琉球王国時代に首里士族の武家屋敷であった「仲田殿内(どぅんち)跡」を囲っており、琉球処分後に玉那覇味噌醤油がその一角を買い取ったものだという。

敷地内の工場は木造。中に入ると、木と味噌の香りが混ざった、独特の心地よい香りが漂ってくる。「工場の木材は、戦前のものですよ」と有紀さんが教えてくれた。沖縄戦の爆風で倒壊してしまったものの、戦後に消失を免れた木材をかき集め、再建したそうだ。味噌を熟成させる木樽も、明治時代から受け継がれたものを修理しながら使っているという。古い木材に囲まれた工場は、時間の重みを感じさせる。

麹・塩と混ぜた大豆はさらにチョッパーで細かくひかれ、木樽に入れて寝かせる

自家製麹へのこだわり

味噌は、丸大豆を麹で発酵・熟成させて造る。取材の日、工場では、蒸してつぶした大豆に自家製の麹と県産の塩を混ぜ、チョッパーでさらに細かくひき木樽に入れる作業が行われていた。

蒸した米・麦に、麹菌を植えて発酵させると麹ができる。最近は、専門の工場で大規模生産されることが多いというが、玉那覇味噌醤油では、昔ながらの手作りの自家製麹にこだわる。保存料や化学調味料など、余分なものを使わない伝統的な製法を守り続けているのも特徴だ。

「麹は生きものなので、温度や湿度など、気候によっても育ち方が違ってきます」と有紀さん。味噌の味を決める麹の出来栄えには、長年受け継がれてきた知恵と技術、職人の経験がものをいうそうだ。

塩・麹と混ぜ合わせた丸大豆を木樽に入れ熟成させる。「本土では冬に仕込み、約1年かけて発酵させますが、沖縄では夏場で3~4カ月、冬場で6~7カ月程度で出来上がります」。沖縄の高温多湿な気候は、味噌造りに合っている、と有紀さんは力を込める。

工場に並ぶ木樽は明治時代から受け継がれるもの

苦境乗り越え未来へ

安政年代に創業し、160年以上にわたり、伝統の味を守り続けてきた玉那覇味噌醤油。 首里の豊富な水量は味噌造りに適しており、三代目の有宏さん(有紀さんの祖父。故人)が明治から昭和にかけ、沖縄戦からの復興も含め、事業を発展させていった。

工場の前に立つ玉那覇味噌醤油5代目当主の玉那覇有紀さん

復帰直前の1971年、有紀さんの母・久子さん(故人)が四代目を世襲。東京で一級建築士として活躍していた有紀さんも帰沖し、建築事務所を営む傍ら、家業を手伝うようになった。

しかし、72年の本土復帰に伴い、本土から大手メーカーによる大量生産の味噌が流入。沖縄の味噌醤油事業は衰退していく。「県内で麹造りから発酵・熟成まで全ての工程を自社で行う蔵のほとんどがなくなりました。逆境の中、玉那覇味噌醤油が今日まで事業を続けてこれたのは、伝統の味を忘れずにいてくれたお客さまのおかげです」と有紀さんは振り返る。

伝統を守りつつも、平成のはじめ頃から新商品の開発にも取り組み始め、93年には高品質を追求した「王朝みそ」、99年にはウコンを配合した「うっちんみそ」の販売も開始した。王朝みそは、贈答用に好まれ、ネット経由で全国注文があるという。うっちんみそも、味噌の甘みとウコンのかすかな風味がマッチし、健康にもよいと好評だ。今年2月には、ラフテーを味噌で煮込んだ「首里のらふてい」「首里のとろっとらふてい丼」をレトルトパウチで発売。さらに新しい展開を見せている。

味噌は「首里みそ」「特選みそ」「うっちんみそ」「王朝みそ」の4種類。県内の小売店のほか、インターネットの通販サイトで購入できる

2014年に五代目に就任した有紀さん。昔ながらの味を受け継ぎ、安心・安全な味噌造りを続けるとともに「今は止まっている醤油造りを再開したい」と意欲を燃やす。伝統の味噌と醤油が、200年、300年後の世代にも受け継がれていくことに期待したい。

(日平勝也)


玉那覇味噌醤油の敷地は重厚な石垣に囲まれている

有限会社 玉那覇味噌醤油

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(2023年4月6日付 週刊レキオ掲載)