50年分のありがとうを写真集に 南方写真師 垂見健吾さん


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

ありとあらゆる「沖縄」写した集大成

沖縄の島々や人々を撮り続け、「南方写真師」の肩書を持つ写真家・垂見健吾(たるみ・けんご)さんが、4月25日に『めくってもめくってもオキナワ』を出版した。1973年から2023年までの50年間に撮影した写真が収められている本作について、思いを語ってもらった=ジュンク堂書店那覇店 撮影・Nagi(チーム・めくっても)

沖縄の島々を巡り、そこに暮らす人々を撮り続け、「南方写真師」の肩書を持つ写真家・垂見健吾(たるみ・けんご)さんが、4月25日に『めくってもめくってもオキナワ』(コントマガジン刊)を出版した。重量1.3キロ、576ページもあるこの写真集には、垂見さんが沖縄を撮り始めた1973年から2023年までに撮影した写真が収められている。まさに南方写真師の集大成となる一冊だ。

沖縄の島々を巡り、そこに暮らす人々を撮り続け、「南方写真師」の肩書を持つ写真家・垂見健吾(たるみ・けんご)さんが、4月25日に『めくってもめくってもオキナワ』(コントマガジン刊)を出版した。重量1.3キロ、576ページもあるこの写真集には、垂見さんが沖縄を撮り始めた1973年から2023年までに撮影した写真が収められている。まさに南方写真師の集大成となる一冊だ

開口一番「ハイサイ!」と笑う垂見さんは1948年、長野県出身。写真家の山田脩二氏に師事し、「文藝春秋」のカメラマンを経て、30代で独立。スポーツ誌「Sports Graphic Number」や南西航空(現・JTA)の機内誌『Coralway』の創刊から関わってきた。

初めて沖縄に来たのは本土復帰直後の73年。以来、さまざまな仕事を通じて沖縄に足を運ぶことになり、85年に沖縄移住を決めた。

西表島で撮影した垂見さんお気に入りの一枚(写真集から)

空気感を切り取る

自らを「おじぃ」と呼び、周囲からも「タルケンおじぃ」と慕われている垂見さんの周りには常に笑いが絶えない。そんな垂見さんの撮る写真は、自然体の人々の生活が写し出されている。

写真を撮る時に意識していることは「その場所の空気感を切り取ること」だと垂見さんは語る。

「牧志のまちぐゎーによく撮りに行ったんですけど、最初はぜんぜん撮らせてもらえませんでした。売ってる人も買いに来ている人もアンマーだから、男の人がいないわけですよ。そのうちに『なにしにきたわけか?』って言われて『写真撮りに来た』って言うと『写真なんて魂取られるからいやだ』って。そんな時代だったんですよ」

仕事での撮影のため、どうしようかと悩んでいた垂見さんの前に現れたのがシシ屋のアンマーだったという。

魔法の言葉を教えてくれたシシ屋のアンマー。今では娘さんが店を継いでいるという(写真集から)

「シシ屋(肉屋さん)のアンマーが『あのね、いい言葉があるんだよ。ハイサイ、って言いなさい。うちなーぐちだから、言われた方は聞くと安心するよ』って言うんです。それから『ハイサイ』と言ってパチリと撮るようになりました」

それ以来、魔法の言葉として今でも垂見さんはカメラを構える前に笑顔で「ハイサイ!」と声をかけている。

「沖縄の人の優しさというか情というかを、伝えていただきましたね」

沖縄への感謝

『めくってもめくってもオキナワ』は構想5年。垂見さんが初めて沖縄に足を踏み入れた50年前から今に至るまでの何百万枚ものポジフィルムと、デジタルカメラに移行してからの写真データの中から、垂見さんが3000枚ほどセレクトし、そこから編集者とデザイナーが500枚弱に絞った。

5 年近く撮影していると、当然ながら機材も変遷する。『めくってもめくってもオキナワ』を制作する際には、県内で活躍する写真家数名の協力の下、フィルムに光を当てて投影し、デジタルカメラでそれを撮影(複写)する手法を用いた。

文字通り山のような写真をセレクトし、どうやって流れを見せていくか。苦労したが、同時にそれが楽しかったことでもあると、垂見さんは言う。

ポジフィルムの複写作業風景(撮影 チーム・めくっても)

昨年10月から出版のためのクラウドファンディングをスタートさせ、1カ月ほどで目標金額を達成した。多くの人たちの支援があり、当初の予定よりもページ数を増やしたという。製本には、180度開けるコデックス装という様式を採用しており、隅々まで写真を見ることができる。また、質の違う紙を4種類使用しているなど遊び心にあふれているのも特徴だ。沖縄の自然、人、文化など、記録的にも貴重な写真や、沖縄の人なら懐かしい写真も多く含まれた500ページ超の写真集は見応えたっぷり。まさに、めくってもめくってもオキナワだ。

出版に対し、「受け入れてくれた沖縄の島々、人々、沖縄の風景に感謝しています。それがなかったらきっと写真はたまっていなかったと思います」と垂見さんは振り返る。

垂見さんの沖縄写真50年の集大成であると同時に、この先も残したい沖縄の風景が収められたアーカイブ的一冊。ぜひ、じかにめくって体感してほしい。

(元澤一樹)


垂見健吾 写真集『めくってもめくってもオキナワ』(8800円)

発売元・コントマガジン

ジュンク堂書店那覇店、リブロリウボウブックセンター店、市場の古本屋ウララ他、県内の書店で販売中

7/30、11:00から浦添市美術館にてスライドトークショーを開催。
入場無料。予約・問い合わせ:098-879-3219

 

(2023年6月15日付 週刊レキオ掲載)