街中でパートナー探し中のクモに出会った【島ネタCHOSA班】


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那覇市港町の毎日のお散歩コースにて、クモがいるのを発見しました。あまり見たことがないクモだと思い、写真に撮り、図鑑でも種類を調べてみたのですが私にはわかりませんでした。というかとても種類が多くてお手上げでした(笑)。これはいったい何というクモなのでしょう? 調べてみてください!

(那覇市 ぴーたー・ぱーかーさん)

今回は依頼者さんが撮影したクモの写真も送ってくれました。ふむふむ…、あまり見たことがないと言われればそう感じますが、調査員にも詳しいことは分かりません(汗)。ということで、専門家の知見をお借りすることにしました。

ご協力いただいたのは、琉球大学にある博物館「風樹館」の学芸員であり、同大学助教の佐々木健志さん。クモ類について幅広い知識を持ち、新種のクモも発見したこともあるエキスパートです。さっそく写真を見ていただきました。

依頼者さんから提供いただいた写真(2019年12月21日、那覇市港町で撮影)。正体は「オキナワトタテグモ」のオスでした。佐々木さんによるとメスは足や体つきががっしりした見た目になる他、体長も25㍉程度と大きくなるそうです

正体はオキナワトタテグモ

「これはオキナワトタテグモのオスです。道端で出会うことはめずらしいですよ。ラッキーでしたね」

佐々木さんは写真を見るなりすぐに、その種類を判別してくれました。オキナワトタテグモはその名の通り県内に生息する固有種です。

佐々木健志さん

トタテグモの仲間がユニークなのは、その習性にあると佐々木さんは言います。

クモといえば、網を張って獲物を捕まえる、というイメージがある方が多いと思いますが、それは「造網性」と言われるタイプのもの。トタテグモはそうではなく「地中性」と呼ばれるクモで、地面に堀った穴の中で暮らします。この生活スタイルは、原始的なクモの特徴であるそう。穴の入り口には、自らの糸で土などを固めた可動式のふたを作るので、少し見た程度ではそこにクモの巣穴があると分かりません。
このふたから「戸立て」と付いているのですね。巣穴近くを小型の昆虫やダンゴムシなどが通りかかると、トタテグモが一瞬でふたを開け襲いかかるそうです。

英語でも「トラップドア・スパイダー」と呼ばれています。

オキナワトタテグモの巣穴。よく見ると、カモフラージュされたふたと地面の境目が分かります(撮影・佐々木健志)

佐々木さんは、オキナワトタテグモは普通、森や御嶽林のほか、古いお墓や洞窟の中などに見つけられると言います。街中で見つけることはかなりまれですが、10~12月の時期は、オスがメスの巣穴を探して歩き回ることがあるそう。依頼者さんが写真を撮影したのも昨年12月中旬。パートナーを探しているところに偶然出会えたのでは、と佐々木さんは推測します。

身近なクモにも注目!

オキナワトタテグモはなかなか出会うことが難しい種類ですが、県内に暮らすクモの仲間はなんと300種類近く。この中には限られた島にしか生息しない固有種も含まれます。沖縄の自然の豊かさを改めて実感しますね。せっかくの機会なので、佐々木さんに身近に出会うことができるクモ、3種類を紹介してもらいました。

まずはチブサトゲグモ。体長4~10㍉程度のクモで、体についているトゲトゲが特徴。「体の背面の模様がシーサーの顔のように見える個体がいますよ」と佐々木さんは話します。

チブサトゲグモはシーサーの顔のような模様の個体が見られることがあります(撮影・村山望)

ナガマルコガネグモは黄色や黄緑、黒色などのしま模様が腹部に入っています。網にジグザグの模様が入っているので沖縄の子どもたちはそれをアルファベットに見立て「エーゴグヮー」(英語を書く小さいやつ、と調査員は意訳)と呼ぶこともあります。

そして夏場によく見かける、オオジョロウグモ。体長45㍉前後となる日本最大のクモです。巣を作る糸も強力で、小鳥やヤモリを捕まえてしまうほどの網を張ります。実は大きいものは全てメス。オスは体長8㍉程度と極端なサイズ差があるそうです。

ちょっと調べただけでも、とっても奥の深いクモの世界。「クモは苦手~」という方にも、とてもユニークで不思議いっぱいの生き物だということが伝われば幸いです。

(2020年2月13日 週刊レキオ掲載)