那覇の中心にスタジオ誕生! 芸能事務所・FECオフィスが運営する「国際通りバサナイスタジオ」


社会
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エンタメ界の「気になる・知りたい」をリサーチ! 沖縄のお笑い文化を牽引するFECオフィスが「スタジオを開設」という情報を耳にし、取材してきました。

2021年2月にオープンした、その名も「国際通りバサナイスタジオ」。沖縄の言葉でバナナを意味する「バサナイ」は、ひと房に多くの実がなるバナナのように「スタジオもたくさんの沖縄コンテンツの実がなりますように」という思いが込められているそう。那覇のメインストリートである国際通りに「スタジオができた」という点でも話題性たっぷりです。今回は「録音専用スタジオ」を詳しく紹介します。(動画配信スタジオは次の機会に取材します)

聞き手:饒波貴子(フリーライター)

地元・中城村を音楽で盛り上げる、MC護佐丸&いーちふぁ君

ゆいレール・牧志駅近くの「国際通りバサナイスタジオ」を訪ねると、MC護佐丸(ごさまる)さん(左)といーちふぁ君(右)が歓迎してくれました。ラッパーのMC護佐丸さんは、沖縄民謡界の大物歌手・護得久栄昇(ごえく・えいしょう)さんが2018年に発表した「わかるよね口説〜護得久栄昇は常に用意周到」という曲にゲスト参加し、話題になった人物。琉球王国の英雄として知られる中城城(なかぐすくじょう)の城主・護佐丸の志を受け継いでいます。活動のことやスタジオについて聞きました。

―バサナイスタジオでレコーディング経験はありますか?

MC護佐丸:今年の護佐丸の日、5月30日に発表したデビュー曲「中城村 In The House」はここでレコーディングしました。所属しているレーベル「Qwacchi-Noiz(クヮッチーノイズ)」の事務所もここにあるので、なじみの場所でリラックスしながら歌ったんです。スタジオができたことがきっかけでレーベルのリリース曲が増えていますし、今まで機材を用意したりいろんな力を借りていたことが良い環境で即対応できるようになりました。

―デビュー曲について、詳しく教えてください。

MC護佐丸:枕元に立った護佐丸さんに「中城村を盛り上げる曲を作りなさい」と告げられ、歌詞を書き始めました。中城在住の僕が見て感じる地元のことを歌詞にして、曲にのせて歌っています。発展を続ける上地区の南上原(みなみうえばる)は、焼肉屋や回転寿司屋など飲食店がどんどん増えて人口増加率も高い。高台にあるので、以前は夜景を見るために行くようなエリアだったんですけどね。一方下地区は文化財が残っているので、昔と今を見ることができる村だと思っているんです。そんな村全体を知ってもらいたい、こんな地域なんですよということを広く伝えたい気持ちで歌詞を仕上げました。村民のみなさんには共感してもらえる内容も入れたつもりです。曲を作った後にミュージックビデオ(MV)を製作しましたが、撮影中に出会ったのが村の情報通「いーちふぁ君」です。
 

いーちふぁ君:浪人中の僕は、吉の浦公園で大学受験に向けて毎日勉強中。MC護佐丸さんが撮影で通りがかり、おしゃべりしたら中城に詳しいとビックリされました。歴史や社会は得意科目ですからね。MVに出演してほしいと誘われたので撮影に加わりましたが、「中城村 In The House」は村を知ってもらう入り口ソングに相応しい曲。流れを追って場所紹介をするなど、とても良いと思っています。MC護佐丸さんとは意気投合しましたし、受験勉強を続けながら大好きな中城村を広める活動に協力します。

MC護佐丸:「中城村の知名度はまだまだ」と感じる時もあるので、がんばろうと決意しました。「オジーになっても釣りがしたい」気持ちでゴミ拾いを続ける高校生がCMになったり、「住んで良かった街」のランキング上位になったり、最近良いニュースが多いので村の良さを広めたいです。当間の綱引き、伊集の打花鼓(ターファークー)という伝統行事も歌詞に入れました。

いーちふぁ君:「中城を盛り上げてくれてありがたい」と、地元の方から好感触をいただきましたよ。

MC護佐丸:役場や観光協会さんに怒られるかもしれないと心配でしたが(笑)、あいさつに行かせていただいたら喜んでくれて本当にうれしかったです。応援したい、一緒に盛り上げたいと言ってくださる方もいてありがたい。BGMとして流してくれる店舗がありましたし地元をもっとフィーチャーしたいので、村内企業のキャラクターやCM話があればうれしいです。

―地元の方がすごく喜んでくださっているのですね。イントロの三線の音色もインパクト大です!

MC護佐丸:よなは徹さんの演奏です。試し弾きした後すぐに「いいよ!」と録らせてくれました(笑)。実はイントロ部分は民謡の「中城情話」をイメージしたメロディーなので、音楽要素も中城を取り入れています。サウンド面はアレンジ・プロデュースなど全面的にKUGANIさんにお任せしました。ジャケット写真の曲名は、よなは徹さんが手書きした文字です。僕のためかもしれませんが、徹さんは筆ペンを持ち歩いていました(笑)。

いーちふぁ君:音楽家としてあんなにすごい徹さんをいじるなんて(笑)! 本人(アーティスト)以外全て本物。それが「クヮッチーノイズ」のキャッチフレーズなんですよ(笑)。

MC護佐丸:周りからガチガチに固めています(笑)。ラップは元々大好きで自分の曲ができるといいなと思っていたので、「中城村 In The House」は構想から1年くらいかけて仕上げた曲です。サウンドプロデューサーのKUGANIさんとは事前のやり取りを何度もし、歌詞作りも教わりました。初めての経験で訳が分からなくなることもありましたが(笑)、書き直していくうちに曲にだんだんハマっていくと実感し「こんな風になるんだ!」と良い勉強になりました。レコーディングは一発で終わらせようと話していましたが、デビューシングルでテンションは上がりつつ「失敗したらヤバイ」という怖さもありました。進めて大丈夫かな〜とめっちゃ心配でしたよ。

いーちふぁ君:失敗はないでしょ! MC護佐丸は意外に心配性な面がありますが、全く歌っていない僕は「で〜じ(とても)いい歌ありますよ」ってガンガンにアピールしています(笑)。MVには突然出演することになりましたが意気投合したので家に招待し、一緒に村内を散策したんです。僕は歴史を感じる遺跡やオジーオバーが住んでいる昔ながらの地域など、中城ののどかな風景が大好き。生まれ育った地域の津覇(つは)は沖縄の言葉で「ちふぁ」。上(いー)の方にある津覇、というのが名前の由来です。

―「中城村 In The House」は音楽配信サイト「沖縄ちゅらサウンズ」で1位になるなど好評でした。マネージャーさんは第二弾に期待しているそうですが、2人で計画しますか?

MC護佐丸:中城を盛り上げたいので、第二弾の動きも作りたい。地元とのコラボ話があれば進めていきたいですし、中城をもっと知ってもらうために全世界に発信したいです。歌詞作りは難しくて止まっていますけどね(笑)。第一弾で「どうしてウチの会社名が入っていないの?」とありがたいクレームをたくさんいただいて、「次に入れます!」と答えていたので悩むんですよ(笑)。

いーちふぁ君:もし僕に歌詞を書いてほしかったら、マネージャーと相談しましょう(笑)。MC護佐丸さんには那覇ハーリーやオリオンビアフェストのステージに出てもらい、那覇の中心で中城を叫んでほしい!

MC護佐丸:中城を広めるために外に出たいですね。もちろん地元の祭りに出演する機会も大切にします。

いーちふぁ君:世界遺産の中城城跡もありますし、村内を案内するガイドもやってみたいです。

MC護佐丸:護佐丸バスを利用して案内できると最高ですし、MVの聖地巡礼もいいかもしれない。

いーちふぁ君:自分の住む村が大好き、という気持ちが一番。盛り上げるためにも早く第二弾を出そう!

MC護佐丸:住みやすくて交通も便利で本当におすすめできる中城村。今日の取材で第二弾へのプレッシャーがこんなに与えられるなんて(笑)・・・村を盛り上げるために、とにかく頑張ります!
 

一般利用OK! プロ機材で録音できるカジュアルなスタジオ

「国際通りバサナイスタジオ」は、アマチュアからプロまで対応可能な仕様とのこと。運営のことや所属アーティストについて、スタッフの比嘉さんに話を伺いました。

―設備や機材について教えてください。

プライベート感覚で使っていただけるスタジオなので、気軽にご利用ください。県外アーティストさんが沖縄に来た時にレコーディングをしたい、という希望などにも対応しています。弊社所属の芸人・タレントも、音楽制作はもちろんナレーション録り、ラジオCMやCMソングの制作などもここで行っています。プライベート感があってリラックスできると好評なんですよ。

一番こだわった機材はケーブル。スピーカーやマイクをつなげる命綱なので、品質が良い高価なケーブルを使うと良い音が出力されます。スピーカーもできるだけ良いものを選び、フラットな状態で聞ける配置とチューニングにこだわっています。自宅録音が当たり前といえる時代ですが、ワンランク良い音や良い環境で録音したいと考えている方たちに気軽に使っていただきたいスタジオです。必要最低限の機材はそろえていますから、アイデアと技術でいろんなことができると思います。

マイクは必要最低限の数ですが、女性の声が艶やかに響くノラ・ジョーンズ愛用のマイクと同じタイプや、繊細な音まで拾う三線・和楽器用マイクなどもそろえました。反響せず声の音だけをストンと録れる環境にしています。MC護佐丸の「中城村 In The House」を聞くと、録音のクオリティーが分かっていただけるはずです。
 

―自社レーベル「クヮッチーノイズ」のアーティストのためのスタジオでもありますね。

そうです。「護得久栄昇大全2」のリリースを控えています。そして演芸集団FECの芸人たちのネタをアルバムにするのはどうか検討中。今年結成20周年を迎えた「ハンサム」の集大成になる作品も制作したいですし、舞台「基地を笑え!お笑い米軍基地」の劇中曲を録音したり、大兼のぞみとDJレイコが曲作りをしたり・・・みんなで活用しながら、音楽作品を量産できる体制を整えたいと考えています。このスタジオがあることで機動力と表現力を伸ばし、音楽を表現の一環にしていくことが狙い。音楽は言葉とリズムがセットで、お笑いと共通する部分があると思うんです。音楽的アプローチの知識をお笑いに活かしたり、芸人さんにとって勉強になる面も多いです。数年かかってやっと実になるでしょうが、芸人さんの持っているリズムを上手くコントロールしながら人の感情を揺さぶるなど、音楽を通してお笑いに落とし込んでいくことを目標にしています。お笑いが音楽に触れて何を得るのか!? 芸人それぞれのセンスにかかってきますし、しっかり学んでほしい。ドリフターズさん他、元々ミュージシャンでコメディアンとして成功した先人は多いですからね。
 

―クヮッチーノイズのアーティスト、「大兼のぞみ」はじめお笑いも音楽も取り組むキャラクターは存在感を放ち、強みがあると思えます。

芸人さんはそれぞれ持ち味や特徴がありますからね。器用な知念だしんいちろうは、レーベルのエグゼクティブプロデューサーも務めています。最後の音源チェックで説得力のある意見を言ってくれるので、独特の感性も含めて対応できるベストな体制になったと実感します。音楽作品を世に出そうと計画する時、真剣であることが重要。例えばお笑いなど別分野の人間がお遊び感覚で音楽に関わるのは、ミュージシャンや音楽関係者に失礼だと僕は思うんです。だからこそ、真面目に音楽に関わる気持ちがあるかどうかだけはしっかりと見ながら、作品をリリースする流れにしています。その姿勢がレーベルのポリシーであり、スタジオ運営などの取り組みにもつながっています。

―MC護佐丸さんも、本人の真剣な気持ちからリリースが実現しましたか?

曲を出したい本人の希望は以前からありました。それに向けた頑張りに熱意を感じ、真剣に取り組める時期だと伝わってリリースしたんです。本気だからこそよなは徹さん、KUGANIさんも賛同して制作に関わってくれました。アーティスト同士のシンパシーとリスペクトもありますし、そんな関係を大切にして良質な作品を出し続けるレーベルでありたいです。音楽好きな方にも響く作品を作っている、と思っていただく努力を続けます。
 

―著名ミュージシャンとの業務提携も話題ですね。小林孝至さん(元THE BOOM)、よなは徹さん(琉球古典音楽・島うた歌者)との関わりはいかがですか?

小林さんは集中できる環境と思ったようで、「このスタジオはすごく居心地がいい、何曲でも作れそう」と言ってくださり、お気に入りのマイクもあります。THE BOOM時代から小林さんは「沖縄の人に愛されて成長できた」と感謝しているので、県内企業のCM曲を手掛けてみたい気持ちもあるようです。ヘアケア用品「TSUBAKI」のCM曲など担当し日本で認められているミュージシャンの小林さんが、沖縄との関わりを広げていきます。小林さん経由で他県のミュージシャンから予約が入り、沖縄に行った時に歌だけ録りたいとか環境を変えて作業をしたいなど、いろんなニーズに対応しています。

よなは徹さんは琉球古典音楽の実演家であり民謡から洋楽、J-POPにも精通しているオールジャンルの人。レコーディング中の振る舞いはじめミュージシャンとしての行動や活動、実力を含めてトップクラスのミュージシャンだと思っています。お笑いに関わってくれるユーモアもあって(笑)、大兼のぞみのバックで弾いてくれたこともあります。「お笑いだけど真面目に音楽をやっているから、どんどん続けてほしい」と言ってくれるんですよ。

弊社がつなぎ役となり小林さんとよなはさんの交流が始まり、「一緒に楽曲を作ったらどうですか?」とお願い中です。「楽しくなりそう」とお互いに思ったようなので、このスタジオでユニットとして楽曲制作に取り組むことになりそうです。世界各国で演奏するなど経験豊富な小林さんと、沖縄から日本のメジャーシーンを渡り歩いている徹さん。2人がコラボすることで相乗効果が期待でき、県内音楽界の刺激になるだろうと思っています。

―コロナ禍が落ち着いて良い状況になったら、スタジオで誕生した楽曲をライブで披露していただきたいです。

音楽ライブをしっかりと企画・制作して、ゲストミュージシャンを呼んで盛り上げていく体制にしていくのも良いですね。スタジオ運営の利点を活かし、ミュージシャンの方々との交流を深めていきたいです。認めていただくために、常に真剣に良い作品づくりに取り組みます。
 

護得久栄昇先生も使うスタジオ

―FECさんがスタジオを作って運営していることに、やっぱりビックリです!

時間をかけて計画した訳ではありませんが、身の丈にあったスタジオが完成したと思っています。しっかりと運営管理し、機材の管理方法などを若手芸人に継いでいくのがベストでしょうね。コロナ禍の時期に録音・配信スタジオを持てたのは武器で、表現の場と発信方法が広がりました。クワァッチーノイズは2017年に立ち上げ、「ハイアップロー」のシングルリリースからスタート。年間4〜5曲をリリースしていて、MC護佐丸のデビュー曲「中城村 In The House」が16番目。創作エイサー団体「国際通り青年会」のミニアルバムは9月に配信リリース済みです。

―自社のレーベルやアーティストの拠点となるスタジオですが、一般利用はどんな感じになりますか?

専属のレコーディングエンジニアが担当し、ご自身の機材を持参してセッティングいただくスタイルです。バンド活動を始めたばかりの学生さんや音楽初心者の方、大きなスタジオに行く前に練習気分で利用したい方など、ちょっといい環境でレコーディングできる場所として重宝してもらえたらうれしいです。他事務所の芸人さんたちの利用も歓迎します。公式サイトに概要や料金を載せていますので、連絡をください。

FECオフィス「国際通りバサナイスタジオ」
http://www.fec.okinawa/news.php#basanai

 

―最後にメッセージをお願いします

宅録以上プロ仕様未満のスタジオですが、良い機材を増やしていきます。そのためにはMC護佐丸にもっと売れてもらう必要がありますし(笑)、全国に知られる音楽を作らなければという思いがあります。お笑いが中心にある事務所なのでプロのミュージシャンと比べると歌の部分で劣ってしまいますが、表現者としてはプロ。そして発売するCDがショップに並ぶ瞬間から、ビートルズのような世界的なアーティストと変わらない立ち位置になるといえます。愛あるコンセプトで音や演奏にこだわった楽曲を収録し、ジャケットも工夫しながら楽しい気持ちで戦います。

このスタジオとレーベルを起点にして、今後さらにいろいろと発信していきますのでよろしくお願いいたします。

 

【インフォメーション】

◆FECお笑い劇場

日時:12月11日(土)18時30分開場/19時開演
会場:テンブスホール(那覇市)(マップはこちら)https://goo.gl/maps/YgJZmcAMn7qCF9A37

料金:一般前売1000円/高校生以下500円/配信視聴チケット1000円
公式サイト==>http://www.fec.okinawa

お問い合わせ:FECオフィス 098-869-9505(平日10時~19時)

◆Qwacchi-Noiz第16弾シングル MC護佐丸デビュー曲! 「中城村 In The House」

iTunes、LINE MUSIC、amazon music他、音楽サイトで配信中!
ミュージックビデオは、YouTube「ちゃんねるFEC」で無料公開中。

※最新情報は「FEC公式サイト」をご確認ください。
http://www.fec.okinawa

◆FECのエイサー団体「国際通り青年会」デビューミニアルバム
デジタルEP「国際通り青年会エイサー曲集」発売中!

全3曲入り。北谷町栄口区青年会から手ほどきを受けた本格的な伝統エイサーをベースにした、踊りとオリジナルのエイサーサウンドに注目!!

まーちゃん作詞・作曲とサウンドプロデュースによなは徹、アレンジにKUGANIを迎えた創作エイサー楽曲史上最高傑作が誕生。

iTunes他、全配信サイトで全世界へ向け発売中!


 

【プロフィール】

MC護佐丸

琉球王国に尽くした中城の英雄「護佐丸」が、ラッパーとして現代によみがえった姿(本人弾)。忠義心そのまま中城村への愛をラップに乗せて歌い、元気に盛り上げている。

Twitter:@MC_GOSAMARU

饒波貴子(のは・たかこ)

那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい。