私が小さい頃、祖母が草木の素材で編んだカゴを作ってくれたのですが、今もやっている人を探してくれませんか?
(名護市 emiばーばー)
面白い調査依頼が来ましたね。
ではさっそく、自然豊かなエリアで昔ながらの手作業をやっている方に聞いてみましょう。八重山伝統民具の製作工房「やちむん館」(石垣島)に電話すると、開口一番「ウチでやっていますよ~」との答え。
何でも草木の繊維を使ったカゴやバッグ、ぞうり、円座などを作っているとか。
伝統民具を継承
石垣空港から車で約5分。森のような9千坪の敷地の奥にある工房を訪れると、館長の池原美智子さんがお出迎え。
「自然いっぱいでしょう? 1978年に創業して今年44年になりますが、民具を作る年配の方が減っているので、伝承のためにこの工房を始めたんです。私は16人家族のなかで育ったのですが、肉、卵、みそ、しょうゆ、お米は自分たちで作り、弁当箱も月桃の葉やハマユウの葉で。枕や円座も自分で作れますよ」とにっこり。
草木で作った民具は普段の生活で使う日用品。池原さんの祖父は小さい頃、まちに出かける時は手作りのアダン葉草履を履いて出かけ、祖母は草木の繊維で帽子を作ったとか。母はサトウキビの出荷時期は寝る暇もなくわらで縄を編み、池原さん自身も小さい頃は、毎日お家の五右衛門風呂をたく松脂(まつやに)は、琉球松からこすり取って使っていたそう。
年配の女性は「ジュズダマ」という植物の実を使ったアクセサリーを首や手首に付け、タンスの虫よけには「ヤマクニブー(香草)」。石垣島のイモを使ったクール(紅露)という染料の存在も教えてくれました。
「いま家で過ごす時間が増えているから、実は民具が爆発的人気。編み物はお家で一人でできますし、葉や繊維など自然の素材でできているから、そのまま外に捨てても土の肥料。これこそSDGsでエコ。小さい子どもは喜んで作りますし、小学生や大学生の授業や修学旅行などで講習をしたり、リモートで教えたり、県外の博物館でアダンのワークショップ。今後は月桃やフェンネルなど沖縄の昔ながらの植物もたくさん育てて継承したいな」と、キラキラ目を輝かせます。
草が玩具やお皿に変身
もう1人、本島で活動されている方をご紹介。草編みボランティア講師などを務める大城琴紀さん(国頭村)は、さっそうとした手さばきでクバの葉を編み込みし、瓶飾りやお皿を作ってくれました。他にも、バッタやかたつむりなどの草玩具。大人も乗れそうなほど大きなマーニで作った草ソリも!
最後に「草玩具を使って遊ぶ子どもたちの姿が見たい」と、調査員は草玩具作りのワークショップを行う「やんばる森のおもちゃ美術館」(国頭村)へ。ここで、草玩具で遊ぶ親子の姿をキャッチ!
「もう1時間も遊んでいます(笑)。子どもがとても楽しいみたいです」(與那嶺勤子さん・吏世ちゃん親子)
貝阿弥ひとみさん(館長代理)は「ここでは電気を使ったおもちゃは一切置いていないのですが、ギャーギャー泣く子や騒ぐ子はいません。おもちゃの材料となっている自然の木や周りの森が、イライラした感情を吸収してくれているのかもしれません」と話します。
小さい頃ばあちゃんが持っていたクバの葉の扇子、おじいちゃんのクバ笠。あの匂いが恋しくなった調査員なのでした。
取材協力
本田星陶所(那覇市壺屋1―1―29)
喫茶「あがち森」(国頭村字奥間2040―6)
(2022年8月4日 週刊レキオ掲載)