約1700種と虫屋の熱意を一冊に!『沖縄甲虫図鑑』 【島ネタCHOSA班】


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本屋さんで、沖縄の甲虫だけを集めたという図鑑、『沖縄甲虫図鑑』が並んでいるのを発見しました。ぱらぱらめくってみると、名前も姿も知らなかった虫がたくさん! こんなにたくさんの虫を記録して本にまとめたのはどんな人? 図鑑がどうやって作られたのかも知りたいです。

(那覇市 たむてぃむ)

昆虫の中でも、クワガタムシやテントウムシなどに代表される甲虫の仲間。依頼のあった『沖縄甲虫図鑑』は昨年発刊されたばかりの本で、なんと県内に生息する甲虫1700余種を紹介しています! 沖縄発の甲虫だけを扱った図鑑は本邦初ですよ。

今回は編著者として中心的な役割を担った、松村雅史さんにお話を聞くことができました。

全国の甲虫研究者が協力

編著者・松村雅史さん。図鑑の写真も全て手掛けています

「私が初めて沖縄に来たのは1972年の3月。パスポートを持って昆虫採集にやってきました。沖縄本土復帰50年の昨年は、私の個人的な節目でもあり、そんな年に図鑑を刊行できたことはよろこびです」

そう話す松村さんは大阪府出身の72歳。10代のころから、昆虫の観察や採集を趣味にする人、いわゆる”虫屋“ として活動しています。現役時代は製薬会社に勤務し、日本各地に転勤。赴任した土地ごとの虫たちとも触れ合ってきました。定年後は沖縄に移住していますが、その理由は、沖縄の魅力的な昆虫たちもさることながら、奥さんが県出身であることも大きいようです。

『沖縄甲虫図鑑』沖縄時事出版 3080円 問い合わせ:098-854-1622(沖縄時事出版)

『沖縄甲虫図鑑』には松村さんを含め、6人の著者がいます。甲虫には約100もの「科」があり、6人で担当分野を持っています。クワガタムシ科やコガネムシ科などは楠井善久さん、テントウムシ科とハムシ科は小浜継雄さん、ホタル科とオオメボタル科は佐々木健志さん、ミズスマシ科やゲンゴロウ科などは青柳克さん、ゾウムシ科やチョッキリゾウムシ科などは吉武啓さん。

松村さんは、もともとの専門はカミキリムシ科ですが、それ以外にもハネカクシ科やハナノミ科など、一般の人では姿もなかなか想像できない種類の掲載も担当しています。

共著者の中で、虫の分類を専門とするのはゾウムシ担当の吉武さんだけです。図鑑の編集には、分類学に基づいた作業が必要になりますが、共著者の誰も専門としていない甲虫については、松村さんが学生時代や社会人時代に知り合った、全国の虫屋さんたちに協力を仰いだそう。松村さんは「昆虫の分類学には各地で研究を重ねるアマチュアの協力がとても大事で、環境省の野生生物レッドデータの作成にも協力しているのです」と熱く語ります。

松村さんと共著者の皆さん

甲虫と生物多様性

取材時に松村さんが持参してくれた標本の一部。専門とするカミキリムシ類

ところで、どうして今回の図鑑は甲虫に注目したんでしょう? 聞いてみました。

「生物多様性を語るにおいて、昆虫の存在は欠かせません。なぜかというと、地球上の生物種のうち、60パーセントは昆虫なんですよ。そして昆虫のうちの40パーセントが甲虫。ほとんどが小さな種類ですが、とても繁栄しているんです」

いまだに毎年のように新種の甲虫が発見されている沖縄県内。豊かな自然は、肉眼では見えにくい小さな世界にも広がっているんだ、ということを松村さんは多くの人に伝えたいのです。

松村さんが生態を解明したオキナワナカボソタマムシ

『沖縄甲虫図鑑』のこだわりの一つに、ほぼ実物大の甲虫のシルエット、または写真を掲載している、という点があります。見つけた虫を調べるのにも役立ちますし、1ページごとに読み進めれば、「こんな虫がいるんだ!」という発見も楽しめます。

自然科学分野でノーベル賞を受賞した日本人の多くが、昆虫少年であったことはよく知られています。子どもたちの自然科学への入り口として役立つ一冊ですよ。

(2023年1月12日 週刊レキオ掲載)