新垣家住宅・東(アガリ)ヌ窯「焼き締め修繕」をリポート!【島ネタCHOSA班】


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那覇市壺屋にある国指定重要文化財・新垣家住宅。伝統建築技術が注ぎ込まれた大きな屋敷は、陶工の住居兼工房として建てられました。敷地内にある登り窯「東ヌ窯」の修繕作業が行われているとの情報を得て、調査員が現場を訪れました。東ヌ窯ならではの、保存・維持方法と関係者の方々の熱意をお届けします。

2009年に全壊してしまった時の東ヌ窯(撮影:那覇市文化財課)(提供:那覇市立壺屋焼物博物館)

赤瓦と石垣が立派な新垣家住宅。敷地内には、大規模な「東ヌ窯」があるのも特徴ですね。「房」と呼ばれる作品を焼くための部屋が9つ連なった、縦に長い構造です。

東ヌ窯は1974年まで稼働していました。稼働停止の理由は、薪を燃やすことで出る黒煙が近隣で問題化したことでした。02年に屋敷全体が国の文化財指定を受けますが、窯は09年に老朽化や大雨の影響で全壊してしまいます。窯が修復されたのは15年。かつての形状を復元するため、資料や記録を基にした丹念な作業が施されました。

修復後も文化財には保存や維持が不可欠。東ヌ窯の場合は特に大掛かりで、内部に火入れする「焼き締め修繕」が必要です。

使える状態で復元

壺屋東ヌ窯保存会の事務局長・新垣寛さん。壺屋焼の窯元「新垣陶苑」の陶工でもあり、登り窯の知識に精通しています

1月下旬、修繕の様子を特別に見学できることになった調査員。東ヌ窯を訪れると、ガスバーナーが火口(ひぐち=薪をくべるための窯前面の穴)にセットされ、ジューっと音を立てていました。ガスボンベを何本も使いながら、3日間夜通しで火入れしているそうです(!)。窯内の温度は場所によって、最終的に1200度台まで上がると、作業を行っていた壺屋東ヌ窯保存会の事務局長・新垣寛(ゆたか)さんが教えてくれました。

「火口から3房目までは、実際に焼き物が焼ける状態で復元されているんです」と話すのは、那覇市立壺屋焼物博物館の又吉幸嗣さん。そう、実は東ヌ窯、現在も使えるんです。焼き締めは、窯内部の湿気を飛ばすなどの役割を持った作業。窯の強度を高め、使用可能な状態を維持するために、定期的に行われています。

那覇市立壺屋焼物博物館の学芸員・又吉幸嗣さん

窯としての機能が残されているのは、修復計画が立てられた当時の新垣家当主、故・新垣徹児さんの意向があったから。「徹児さんは『東ヌ窯を活用したい』という思いが強くあったよね」と寛さんは振り返ります。国指定重要文化財の建造物で、現在も使用できる、という例はほとんどないそうです。

将来の活用に向けて

焼き締め修繕中の窯を火口側から

「登り窯は土造りなんで使えば使うほど、崩れます。昔の職人からすれば道具の一つ。壊れたら直せばいいや、という感覚だったのでしょう」

復元作業から東ヌ窯に関わり、窯本体の成形も行った寛さん。登り窯とは本来、定期的に造り直されていたものだと話します。しかし、文化財である現在の東ヌ窯を簡単に造り直すことはできません。そこで、文化財としての価値と登り窯としての機能、両方を維持することが求められるのですが、これは先人たちも経験しなかったこと。又吉さんも「今の東ヌ窯にはどのような手法が適切なのか、手探りでやってる状態です」と話します。

制限や困難も多い仕事ですが、それでも二人や地域の関係者たちがエネルギーを注いでいるのは、いつかまた、伝統ある東ヌ窯で焼き物を作りたい、という夢があるから。関係機関や近隣住民との調整など、課題は多いのですが、教育や地域活動の一貫として活用方法を見いだしたいそうです。

「将来『ここで焼いてみましょう』ってタイミングが来ると思うので、今は焼き締め修繕をがんばっています」。寛さんは笑顔で教えてくれました。

窯に再び火が入り、焼き物が焼かれる光景を多くの人と共有したいですね。今後の東ヌ窯の活用について、何か動きがあれば、また本コーナーでお伝えします。


(2023年2月16日 週刊レキオ掲載)