陸上で生活する両生類、イボイモリってどんな生き物?【島ネタCHOSA班】


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イボイモリはイモリなのに、大人になると陸上で生活すると聞きました。名前は知っているけど、なかなか出合える生き物ではないので、どんな暮らしをしているのか知りたいです。

(沖縄市 アンダーソン公園)

     千木良芳範さん

イボイモリ、新聞やテレビなどで名前を見かけることはありますが、何を食べて、どんな一生を送っているか、見当もつかないですね…。仮に山中などで見つけたとしても、国内希少野生動植物種と沖縄県指定の天然記念物に指定されているため、触れたり、捕獲することはできません。一般の人が長時間観察する、というのは難しいのです。

ということで、調査員は沖縄の両生類を長年にわたり調査するエキスパートに話を聞くことにしました。元県立博物館・美術館副館長の千木良芳範さんです!

太古のグッドデザイン

イボイモリの成体(14~20センチ)。体の横にある“イボ”は、背骨から横に張り出した肋骨の先端が皮膚に浮かび上がったもの。原始的な生き物の特徴です。寿命や、産卵期以外はどう過ごしているのか、などまだまだ謎の多い生き物です(撮影・村山望)

まずは、名前の由来でもある体の“イボ“について尋ねてみました。

「あれは肋骨のできそこない、いわば『未完成の肋骨』なんです」

楽しげにそう説明する千木良さん。人間を含めた哺乳類や爬虫類などは、背骨からカーブを描いて肋骨が延びています。主な機能は、内臓の保護であり、これは、陸上に生息する脊椎動物に共通しています。一方、カエルなどの両生類には、肋骨がありません。

イボイモリの近縁にあたる先祖は、古生代のデボン期(4億1600万~3億5920年前)に、水中から地上に進出した生物だといわれています。カーブを描かず、横方向に張り出した肋骨は、陸上で生活を始めたばかりの原始的な生物に見られる特徴なのです。千木良さんはこの特徴が、デボン期の環境に適応した「グッドデザイン」であり、現在でも問題なく通用するものであると考えています。昼間は落ち葉の下や穴の中に隠れ、じっとしていることが多いイボイモリのスローなライフスタイルも、種が存続してきた一因のようです。

幼生以外は陸上に

動きもゆっくりなイボイモリ。食べ物もカタツムリやミミズなど捕獲に苦労しないもので、消化も時間をかけて行うそうです。

イボイモリのもう一つの大きな特徴が、水中で暮らすのは幼生(オタマジャクシ)の時のみ、という点。成体は基本的に水に入らず、産卵も陸上にするそうです。卵は、水たまりや沢の周辺などに産みつけられます。雨に合わせて孵化し、幼生は水場まで跳ねていくのだとか。「孵化した幼生が一番最初にするのはジャンプです」と千木良さんは説明します。

孵化間近のイボイモリの卵。直径5ミリほど
卵から生まれたイボイモリの幼生には、頭の横に外鰓(がいさい、体の外に飛び出したエラ)があり、ウーパールーパーを思わせます(撮影・村山望)

ところで、沖縄島でのイボイモリの生息場所ってどこだと思いますか?

世界自然遺産に登録されたやんばるをイメージする人も少なくないと思うのですが、実は中南部の小規模な森でも見つかるのだとか。千木良さんは「中南部で生息するイボイモリは、かつて沖縄島全体が豊かな自然に覆われていた時の名残だと考えられます」と教えてくれました。

イボリモリを通して、身近な場所にも豊かな自然があることや、それを育む生物多様性にも気付いてほしい――。そんな思いを伝えて、千木良さんは、話を結んでくれました。

※記事中の「イボイモリ」という和名は、沖縄島と周辺離島に生息する「オキナワイボイモリ」を指しています。国内に生息するイボイモリは1種類だとされてきましたが、昨年、奄美大島・徳之島に生息するものと沖縄島と周辺離島のものは別種であると発表されました。現在は「オキナワイボイモリ」と「アマミイボイモリ」の2種類に分かれています

(2023年6月8日 週刊レキオ掲載)