修士号、英語を駆使し世界で仕事・・・ “順風満帆”なキャリアの中での突然の挫折【レインボーハート】


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私は30歳の頃、突然のめまいと身体のしびれにおそわれ、沖縄のある総合病院に救急搬送された経験があります。磁気共鳴画像装置(MRI)や血液検査を受けても原因が見つからず、2週間も仕事ができない状態になってしまいました。

修士号を取得し、国際協力機構(JICA)に就職し、英語を使って海外出張をし、お金も安定も手に入れ、周りから見れば順風満帆の人生でしたが、大きな挫折を経験しました。

体調不良の原因が見つからずとても不安だったのですが、あるカウンセラーのアドバイスをきっかけに不調が治りました。そのアドバイスとは「自分を大切にする」ということでした。

それまでの私は、心がしんどくても「大丈夫?」と聞かれれば、無理して「大丈夫」と取りつくろい、嫌なことでもNOと言えないタイプでした。自分がどうしたいかよりも、社会のやり方や周りの期待に合わせようとしてしまうこともよくありました。

私たちは人と関わり合いながら社会で生きていくわけで、全てを自分の思い通りにすることはできません。しかし、私の場合、周りに合わせようと自分の気持ちを抑え込む習性が強すぎた結果、体が限界に達してしまったのでした。

22歳でゲイをカミングアウトし、性の面ではずいぶん自分を受け入れられるようになったのに、根本的なところで無理をしていたことに気づけたのでした。

「自分をもっと大切にしよう。自分が心から情熱を傾けられる、やりたい仕事を探そう」

「自ぶんは自ぶんです」と力強く書かれた小学生の感想

そう決意した私は生き方が180度変わりました。

周りよりもまずは自分の本当の気持ちを大切にするようになっていったのです。

JICAを退職し、ガラクタ整理に出合い、ガラクタ整理師として講演をするようになり、本を3冊も書く機会を頂きました。

数年前からは「LGBT・性の多様性」についての講演会を学校で行うようになり、これまで延べ130を超える全国の学校で講演させていただきました。

もちろん、いろんな苦労や失敗もあります。しかし以前のように周りにばかり目を向けて本音を抑えることはしなくなり、自分の気持ちを大切にするようになったので、今本当に幸せだと感じます。ストレス発散のために飲んでいたお酒も10年以上飲んでいません。

学力も仕事もお金も、もちろん大切です。しかし人間にはもっと大切なことがあって、自分を大切にできなければ仕事すらできなくなってしまう。

大きな挫折を通じて学んだ大人として「自分らしさを大切にしてほしい」と子どもたちに伝え続けたいと心から思っています。

(2019年7月9日 琉球新報掲載)

 竹内清文(たけうち・きよふみ) 岡山県津山市出身、沖縄県在住。レインボーハートプロジェクトokinawa代表。LGBTをテーマに学校講演会を数多く行う。