<金口木舌>イチハナリアート


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 小学生時代に聞いた方も多いのでは。氷が解けたら何になるかの問答である。大方の答えは「水になる」となったが、先生が紹介した答えが記憶に残る。「水も間違いではないが『春になる』と答える子もいる」

▼冬の路上の水たまりが凍る地域での話ではある。それでも季節感を捉えて、しなやかに視点を転換する感性に感心した。時と場所、人によって感性や物の見方は多様だ
▼画家パブロ・ピカソは、そんな感性に苦心した一人だろう。晩年「ようやく子どものような絵が描けるようになった。ここまで来るのに随分時間がかかったものだ」と語った
▼成長するにつれ、物の見方は型通りとなり、惰性にも陥りがち。感性や発想を常に磨くのは並大抵でない。では、どうするか。苦心の末、子どもの感性を得たピカソのような成果に触れるのも一計かもしれない
▼アートの見方に枠はない。見る者に委ねられる。今も時代に挑戦する多彩な作品が創作されている。そんな現代作品を集めた「イチハナリアート」が、うるま市の浜比嘉島などで開催されている
▼島々の集落を巡り、点在する古民家内の展示に見入る。演出にこだわった県内外の若手アーティストの才能が発揮されている。見応えのある作品が今年もそろった。「何だろう。これは」。素朴な疑問で感性を澄ませば、発想の幅も広がる「芸術の秋」である。