<金口木舌>善意銀行


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 辞書を開くと、探している言葉以外の項目が目に止まり、読み始めてしまうことがある。目を引く図版が載っている百科事典だとなおさらだ。目的以外のことで時間を費やしてしまう

▼昨年6月から始まった沖縄戦後新聞の編集に関わっている。米施政下の沖縄の出来事を振り返る企画で、多くの文献に当たる。当時の紙面を開くのも大切な作業だ
▼今とは紙面レイアウトが違えば、ニュースと判断する価値基準も異なる。政局や米当局の動きを報じる記事を探してページをめくるが、それとは関係のない記事に引き込まれることが多い
▼本紙の1965年8月24日付社会面トップ「善意銀行 きょう店開き」もそうして目に止まった。沖縄社会福祉協議会を事務局に始まった民間の貢献活動の一つ。金品だけでなく、専門性のある職業の人が自らの技術を「預け」、これを必要とする困窮世帯などが「払い出す」という仕組みだ
▼記事は那覇市内のお医者さんからさっそく医術の預託があったと伝えた。善意のニーズをつなぐこの取り組みは62年に徳島県で始まり全国に広がったという
▼制度の異なる復帰前の沖縄で、先進事例を見習って実行した関係者の心意気を感じる。貧困が社会的関心を集め、昨年はさまざまな取り組みが始まった。知恵を凝らし、当事者や活動に当たる関係者を支える輪がもっと広がる年にしよう。