<社説>自宅待機の患者死亡 療養体制の整備が急務だ


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 新型コロナウイルスに感染し軽症と診断された埼玉県内の男性が、自宅待機中に容体が悪化して死亡した。新型コロナは軽症者でも容体が急変することがあると度々指摘されてきた。今回のような事態を繰り返さないよう対策を強化しなければならない。

 埼玉県の50代男性は11日に発熱などを訴え、16日に陽性と判定された。症状は安定し、保健所はすぐ入院する必要はないと判断した。男性は20日夜に保健師に具合が悪くなったと伝え、21日に入院することになったが入院前に容体が急変し、病院に搬送されたが死亡が確認された。
 埼玉では別の70代男性も感染判明後の自宅待機中に容体が悪化し、死亡している。こちらも軽症と診断され、病床が空くのを待っていた。
 50代男性の例では保健師が毎日電話で体調を確認していたという。大野元裕知事は「このような事態に至ったわれわれの責任は重い」と述べ、経緯を検証すると表明した。調査を急ぎ、結果を広く共有できるようにすべきだ。
 自宅療養中の死亡を受け、厚生労働省は23日、ホテルなど宿泊施設での療養を基本にするとの方針を示した。これまでは自宅での療養も認めていたが、方針を転換した。
 政府は当初、感染症法に基づき全員を原則入院させるとしたが、感染急増に備えて2月、軽症者らを自宅で療養する方針を示した。厚労省は4月2日、病床逼迫(ひっぱく)による医療崩壊を避けるため、軽症や無症状の感染者は宿泊施設や自宅での療養を検討するよう都道府県に通知している。
 これを今回、「原則宿泊施設」と再び軌道修正した形だ。新しいウイルスで未知の部分が多いことは確かだが、対応がまたも後手に回った感が否めない。危険性を見誤ったと言われても仕方がない。
 警察庁によると、3月中旬から4月22日に警察が取り扱った遺体のうち東京など5都県で15人が新型コロナウイルスに感染していたという。自宅で死亡した人や路上で倒れていた人などだ。これも気になる数字だ。
 埼玉での死亡例を受けて、加藤勝信厚労相は自宅療養中の軽症者や無症状患者の人数を把握する考えを示した。対応が遅すぎるが、すぐに宿泊先を確保できない地域もある。速やかに調査すべきだ。
 沖縄では17日から那覇市のホテルで軽症者らの受け入れが始まった。宿泊療養の整備を進めてきた東京都では、患者が外出禁止や持ち込み制限などを嫌い、ホテルより自宅での療養を選ぶ傾向があるという。健康管理や感染拡大のリスクを丁寧に説明し、看護師らが常駐する宿泊療養を促す必要がある。
 一方で子育てなどの事情で自宅療養せざるを得ない人たちもいる。ホテルでも自宅でも安心して療養できるよう、政府や自治体は医療関係者らとの連携をより一層強化して早急に体制を整えてほしい。