<社説>東京五輪元理事逮捕 全容解明し組織で改善を


社会
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 東京五輪・パラリンピックのスポンサー選定などを巡り、東京地検特捜部は、受託収賄の疑いで大会組織委員会の元理事高橋治之容疑者を、贈賄容疑で紳士服大手AOKIホールディングス(HD)前会長の青木拡憲容疑者ら3人を逮捕した。高橋容疑者はAOKI側から計5100万円を受け取ったとされる。

 AOKIHDがスポンサーとして正式発表される1年以上前、高橋容疑者が主導し、異例のトップダウンでスポンサーに事実上選定していた疑いがある。AOKIHDがスポンサー料として支払ったとされる5億円は同じカテゴリーの基準となる金額の半分以下だったことも判明した。
 国際オリンピック委員会(IOC)の倫理規定は、大会関係者について、大会に関わる報酬や手数料などの受領を禁じている。また組織委の役員は「みなし公務員」と位置付けられ、職務に関し賄賂を受け取れば汚職の罪に問われる。容疑が事実なら、スポンサー選定は耳を疑うほどずさんだ。特捜部は全容を解明してほしい。大会組織委は6月に解散したが、関係者は捜査に協力しつつ問題を明らかにし、今後の五輪組織の運営に資する改善策を示すべきだ。
 このような事案が起きる背景には五輪利権がある。開催に膨大なお金がかかり、そのほとんどが選手たちに使われず、大会の運営や放映、出資する人々の手に入ると指摘されてきた。そこを根本的に改善すべきだ。
 高橋容疑者は広告大手電通の元専務で、スポンサーの選定などは事実上、電通からの出向者が多数在籍した組織委マーケティング局が担っていた。AOKI側の意向を受け、マーケティング局に働きかけた疑いがある。
 高橋容疑者は賄賂性を否定している。理事としての職務に関する資金の授受を立証できるかが捜査の焦点だ。
 賄賂とされる資金が入金された高橋容疑者のコンサルタント会社「コモンズ」の実態解明もポイントとなる。逮捕容疑になった計5100万円とは別に計約2億3千万円も受け取っており、一部はコモンズに残ったとされる。
 高橋容疑者は「金融機関への返済に充てた」と検事に説明したという。これを裏金にして誰かに渡したと特捜部は疑っているようだ。別の事件の入り口となる可能性がある。特捜部は全容解明に向け闇の世界があるのなら徹底的にメスを入れてほしい。
 高橋容疑者の逮捕を受け、日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長は、2030年冬季五輪招致に影響ができるだけ出ないよう「全力を尽くす」と述べた。
 今回の逮捕は高橋容疑者の動きを許した大会組織委の組織としての問題でもある。五輪関係組織は意思決定の過程や在り方、お金の流れなどを透明化し問題があれば即改める姿勢が必要だ。そうでなければ信頼回復は望めない。