<社説>石垣陸自配備 既成事実化は許されない


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 石垣島への陸上自衛隊の配備計画で、若宮健嗣防衛副大臣が石垣市の中山義隆市長に対し配備を正式に打診した。市長は明言を避けたが、防衛省は計画の一部しか明らかにしていない。甚だ遺憾だ。

 副大臣は南西諸島の防衛力を強化するとして、陸自部隊を同市の平得大俣地区周辺に配備し、隊員500~600人を配置する計画を説明した。有事の際の初動を担う警備部隊のほか、地対艦ミサイル(SSM)や地対空ミサイル(SAM)の部隊を配備するとの内容だ。
 防衛省内では、部隊や物資の輸送用ヘリコプター部隊の配備も計画しており、隊員は合わせて700人規模に膨らむ可能性がある。最初は一部の説明にとどめ、事が進んでから残りを話そうという態度なら不誠実極まりない。
 副大臣はミサイル部隊の展開地や訓練場については説明しなかったが、候補地とされた島中心部にある市有地だけでは、自衛隊用地としては不十分との指摘がある。ましてやヘリ部隊の駐機場や訓練場はどこになるのか。全て包み隠さず明らかにすべきである。
 配備について副大臣は「石垣島に警備部隊等を配置することで攻撃に対する抑止力を高める」などと理解を求めたが、違和感を禁じ得ない。むしろ逆ではないのか。
 軍事拠点があるからこそ攻撃されるリスクが高まることは世の常識であろう。ミサイル部隊の防衛能力にはおのずと限界があり、かえって軍拡競争を招きかねない。
 陸上自衛隊は宮古島や奄美大島にも警備部隊やミサイル部隊を配備する計画だ。与那国島では沿岸監視部隊の駐屯地建設を進めている。南西諸島で約2千人を新たに配備することになるが、冷戦後リストラを余儀なくされた陸自の生き残り策との指摘もある。
 配備の根拠は海洋進出を進める中国への警戒だが、脅威をあおるだけでは反発を招くだけだ。普段の外交や信頼醸成にこそ力を注ぐべきで、相手に軍拡の口実を与えてはならない。
 防衛省は来年5~6月ごろに配備計画を説明する予定だったが、参院選や県議選での争点化を避けるため時期を早めたとの見方もある。事実ならとんでもないことだ。
 計画の全容を速やかに公開した上で、県民、市民の意見に幅広く耳を傾けるべきだ。配備に向けて既成事実化を図るような姿勢は許されない。