<社説>久辺3区交付金 政権の一手は逆効果生んだ


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 露骨な「アメとムチ」をまとった地方自治への介入そのものである。前時代的な分断統治を図る安倍政権の姿にそんな思いを抱く。

 防衛省は名護市辺野古への新基地建設をめぐり、地元の久辺3区(辺野古、久志、豊原)に対して直接補助金を交付できる制度を創設した。各区の事業申請に基づき、1300万円を上限に支出する。
 交付要綱には「航空機40機、人員千人以上増加する地域の地縁団体」と明記されており、実質的に久辺3区だけを対象にした補助率100%の補助金だ。
 新たな法律は制定せず、現行の予算措置内の補助として制度化した。地元3区を移設容認に傾ける以外には目的が見いだせない血税の投入である。ばらまきに等しいつかみ金のような性質だ。
 補助対象について「影響の増加に特に配慮することが必要」と記し、将来の負担増に補助金を支出する尋常ではない措置だ。しかも事業の内容は、前名護市長時代の再編交付金の残額を基金にして、名護市が進めている事業とほぼ重なっており、制度の必要性の議論が置き去りにされている。
 国がその手で地方自治をかき乱し、財政支出の規律に背を向けた。政権のモラルハザード(倫理崩壊)が一層くっきり像を結んだ。「無理が通れば、道理が引っ込む」は許されない。
 臨時国会が開かれていないため、制度の問題点は国会で全く議論されていない。名護市の頭越しの支出に対し、地方財政の専門家からも法的整合性が取れるのかと、疑問符が突き付けられている。
 菅義偉官房長官は「3区長から要望書が提出されている」などと述べ、3区が移設を容認、賛同しているという印象を振りまくことに躍起になっている。だが、3区内には賛否さまざまな意見がある。久志区は受け取りの可否を決める区民総会がまとまらなかった。
 1990年代後半、普天間飛行場の移設先として辺野古が浮上した際、自民党政権は大規模な北部振興策を繰り出した。当時の沖縄社会は政権の「アメとムチ」に翻弄(ほんろう)される面もあったが、今は通用しない。
 新基地を拒む強固な民意が息づく中、久辺3区直接補助を多くの県民が苦々しい思いで見ており、新基地ノーの民意をかえって強めた。沖縄は分断されない。安倍政権の一手は逆効果を生み出した。