<社説>忘れられる権利 民間主導で基準確立急げ

 インターネット上に残り続ける個人情報の削除を求める「忘れられる権利」について、裁判所がこれを認めた。社会全体で議論を急ぐ必要があろう。

 検索サイト「グーグル」の検索結果から、自身の逮捕に関する記事の削除を男性が求めた仮処分申し立てで、さいたま地裁が削除を認める決定を出した。
 地裁は「犯罪の性質にもよるが、ある程度の期間の経過後は、過去の犯罪を社会から『忘れられる権利』がある」と判断した。検索結果の削除を命じた司法判断は過去にもあるが、「忘れられる権利」と明示して求めたのは国内初とみられる。
 現代のネット社会では誹謗(ひぼう)中傷が限りなく拡散される事例が後を絶たず、ひとたび悪評が広がると名誉回復は非常に難しい。そうした現状に一石を投じた点で今回の決定の意義は大きい。
 ネット上の個人情報を消去するためには、書いた人やサイトの管理者に削除を求めるのが一般的だ。だが連絡できなかったり転載を重ねられたりした場合は、全て削除することは困難だ。
 決定で小林久起裁判長は「逮捕の報道があり、社会に知られてしまった人も私生活を尊重され、更生を妨げられない利益がある」とした上で「ネットに情報が表示されると、平穏な生活を送るのが極めて困難なことも考慮し、削除の是非を判断すべきだ」と指摘した。
 現代のネット社会では誰もが被害者になりかねないが、個人への中傷やプライバシー侵害に多くの人が泣き寝入りする社会であっていいはずがない。ネット上のあらゆる権利侵害を速やかに特定し、いち早く救済手段を講じるような仕組みが求められている。
 検索サイトのヤフーは昨年3月、検索結果の削除基準を公表している。プライバシー侵害が明らかな場合は削除に応じるが、逮捕歴や、公職者・著名人の情報は公益性が高く、事案ごとに判断するという。
 検索サイトが知る権利に貢献している側面は当然ながら尊重されるべきだ。安易に削除要請を認めれば、公人の不祥事や公益性のある情報まで消されかねない。権力の検閲強化につながりかねないとの指摘も、もちろんうなずける。
 知る権利や表現の自由との両立を図りながら、民間の主体的な取り組みで削除の基準などに関するルールの確立を急ぎたい。