<社説>係争処理委 本質論議に期待したい


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 今度こそ、入り口論ではなく本質的な内容で審査してもらいたい。辺野古の埋め立て承認取り消しに対する国の「是正指示」が違法か否か、国地方係争処理委員会の審査が始まった。

 昨年10月に翁長雄志知事が前知事の承認を取り消した際、国は執行停止とした。防衛省の申し立てを同じ内閣の国土交通省が認めるという茶番劇だったが、その執行停止に対して県が審査を申し出た際には、係争処理委員会は申し出を却下した。同委員会の審査対象は「国の関与」に限られるが、「執行停止」は「決定」であり、「関与」には該当しないという判断だった。
 だが代執行訴訟の和解により、国の手続きはやり直しとなった。今回は、前回のような「執行停止」ではなく「是正指示」である。是正指示は、地方自治法245条で「関与」の一つと明記しており、審査対象となるのは疑いようがない。入り口論をめぐる不毛なやりとりが省かれたのは好機だ。本質論議での審査を期待したい。
 何が本質か。出発点を思い起こしたい。前知事は埋め立てを突如として承認した。これに対し、県の第三者委員会は承認に法的瑕疵(かし)があると結論づけた。
 理由の一つは、辺野古での新基地建設に、著しい不利益を正当化するだけの必要性がないという点だ。普天間飛行場の代替基地が県内でなければならない軍事技術的理由は存在しない。新基地が「本土住民の嫌がる気持ちは重く見るが、沖縄の民意は無視する」という政治的意思の所産であるのは、もはや周知の事実だ。この点を無視してはならない。
 前知事の承認より前、当時の県環境生活部長は埋め立てに否定的意見を出していた。その意見は撤回されていない。環境破壊を正当化するだけの根拠もない承認だったことを示している。
 地域の公益という点でも正当性は乏しい。基地が最大の経済阻害要因であることは、データその他で立証済みだ。経済的観点で見ると新基地建設はむしろ発展の芽を摘むのである。
 前知事の行為に法的瑕疵があれば現知事が取り消しをするのは妥当であり、むしろしなければならない行為である。国の是正指示の方が妥当性を欠くのは自明ではないか。係争処理委は実質審理に徹し、自治の重要性も踏まえ、何が公益か適切に見極めてもらいたい。