<社説>市町村予算 選択と集中で課題乗り切れ


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 旺盛な財政需要と厳しい財源のはざまで、住民福祉の向上と財政健全化の両立を図らねばなるまい。横たわる課題を克服するキーワードは「選択と集中」だろう。

 琉球新報社が実施したアンケート調査で、県内41市町村の2016年度一般会計当初予算案の総額は約7177億円となり、前年度比で約262億円の増となった。
 県内でも高齢化が進み、子どもを取り巻く貧困が大きな社会問題としてクローズアップされている。
 児童、高齢者、障がい者、生活困窮者らを支援する生活保護費や児童手当などの扶助費が急激にかさみ、公共施設の老朽化に伴う建て替えなどの事業費も増えた。ハード、ソフト両面で財政需要が旺盛なことが、25市町村で前年度より予算を増額した要因だろう。
 喫緊の課題である「子ども・子育て支援」や子どもの貧困対策には、厳しい懐事情ながらも政策判断を加味して増額された。住民のニーズと合致した優先順位が高い当然の措置と言える。
 総じて財政基盤に弱さが目立つ。
市町村民税などの自主財源は約2224億円にとどまり、市部平均が29・1%、町村部平均が24・7%で全国に比べて低い傾向が続く。
 こうした中で、今後も扶助費増が避けて通れない。市町村の裁量権が広がった沖縄振興一括交付金の活用法などに工夫を凝らし、積極性を失わずに実効性を担保する政策経費の確保も重要課題だ。
 インターネットを活用したふるさと納税を生かし、前年度から寄付金が7528万円余も増えた竹富町のような知恵も発揮すべきだ。
 市町村の自治、自律の能力が鋭く問われる時代であることを自覚し、大胆な事業選別を伴う「選択と集中」に基づいた不断の財政改革に取り組んでもらいたい。
 市町村単位で運営されている国民健康保険の収支は厳しい。単年度で約109億円の巨額赤字を出し、37市町村が赤字だ。
 県全体の保険税徴収率は決して低くないが、65~74歳の前期高齢者が全国平均の半分程度と少ないことが大きな要因だ。この世代の県民の多くが沖縄戦で犠牲になり、国が拠出する前期高齢者交付金が全国平均の約4分の1に抑えられている。
 沖縄戦の戦場となった事情が巨額赤字の遠因である。沖縄社会に不利益を与える前期高齢者交付金制度は見直しが急務である。