沖縄戦犠牲者の冥福を祈る沖縄全戦没者追悼式で翁長雄志知事が発した「平和宣言」は、人権と平和を守る具体策として海兵隊の削減を日米両政府に突き付けた。
激しい地上戦などで4人に1人の県民が犠牲となった。その後も米軍人・軍属が引き起こす事件・事故による深刻な人権侵害が戦後一貫して続いた。そして今年4月にも痛ましい事件が起きた。
戦後71年間、軍隊という暴力装置の脅威にさらされてきた県民の苦悩と怒りが「平和宣言」に刻まれている。式典に参列した安倍晋三首相とケネディ駐日米大使は、そのことを深く自覚すべきだ。
「海兵隊削減」は当然
「平和宣言」で翁長知事は、元海兵隊員の軍属が若い女性の命を奪う許し難い事件を「非人間的で凶悪」と断じた。その上で「日米安全保障体制と日米地位協定の狭間(はざま)で生活せざるを得ない沖縄県民に、日本国憲法が国民に保障する自由、平等、人権、そして民主主義が等しく保障されているのだろうか」と厳しく問い掛けた。
沖縄戦犠牲者を悼む場で、県民はこれほどの悲痛な訴えをしなければならない。これが沖縄の現実であり、基地の重圧を押し付け、事件・事故による人権侵害を放置してきた政府の無策に対する異議申し立てなのだ。
その上で「平和宣言」は「真の意味で平和の礎を築くため」の具体的要求として、日米地位協定の抜本的見直し、海兵隊の削減を含む米軍基地の整理縮小を両政府に求めた。海兵隊削減を「平和宣言」に盛り込むのは初めてだ。
軍属による事件に抗議する県議会の抗議決議は海兵隊の撤退要求を明記した。19日の県民大会も海兵隊撤退を掲げた。「平和宣言」に盛り込むのは自然な流れだ。
原爆による多大な犠牲を負い、今なお市民が後遺症に苦しむ広島、長崎両市の平和宣言は核兵器の廃絶を求めている。原爆体験に照らして、大量破壊兵器の廃絶を求めるのは当然の要求である。
同様に、県民の生命・財産と平和を守るために、米軍基地の整理縮小、とりわけ海兵隊の削減を求める。それは当然の要求なのだ。
地上戦が終わった後も女性は性暴力の標的となった。「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」の高里鈴代共同代表は「戦争が終わっても、女性にとって新たな戦争が始まった」と語る。
基地による女性への性被害が今日も続いている以上、戦争は終わっていないと言うべきだ。性暴力という戦争に終止符を打つためにも海兵隊削減、米軍基地の大幅な整理縮小は不可欠だ。
びぼう策納得できぬ
安倍首相も式典であいさつし「卑劣極まりない凶悪な事件が発生したことに、非常に強い憤りを覚える」として、米大統領に直接抗議したと述べた。地位協定上の軍属の扱いを見直すことで米国と交渉していると説明する。
しかし、県民が求めているのは軍人・軍属に特権を与え、犯罪の元凶になっている地位協定の抜本的な見直しだ。軍属の扱いの見直しはびぼう策にすぎず、到底県民を納得させるものではない。
翁長知事は「平和宣言」で昨年同様、新基地建設反対を明記し「普天間飛行場の辺野古移設については、県民の理解を得られず、これを唯一の解決策とする考えは、到底許容できるものではない」と厳しく批判している。
県遺族連合会の宮城篤正会長も「米軍普天間飛行場の早急なる移設を熱望すると同時に、戦争につながる新たな基地建設には遺族として断固反対する」と述べ、政府に新基地建設断念を迫った。
これが、沖縄戦を経験し、今も米軍基地による人権侵害に苦しむ県民の声だ。日本本土の国民は耳をふさいではならない。現在の日米安保体制の存続を許容する以上、今回の悲惨な事件、新基地建設問題の当事者であることを国民全体で再認識すべきだ。
英文へ→Editorial: In declaration, Governor Onaga calls for protection of human rights and peace