<社説>米軍属事件追起訴 事件捜査の障壁排除せよ


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 県民に大きな衝撃を与えた事件の舞台が法廷に移される。裁判を通して事件の真相を明らかにしてほしい。同時に事件捜査の障壁である日米地位協定の問題点を浮き彫りにする機会とすべきだ。

 米軍属女性暴行殺人事件で那覇地検は元海兵隊員で米軍属の男を殺人と強姦(ごうかん)致死の罪で追起訴した。裁判員裁判となる。
 若い女性の生命を奪った罪の重さは計り知れない。基地ある故の残虐な事件に抗議する県民大会が開かれ、海兵隊撤去を訴えた。文字通り県民注視の中で裁判が進むことになる。
 被告は逮捕前の任意聴取で「2、3時間車で走り、乱暴する相手を探した」などと明らかにしたが、逮捕翌日の5月20日以降は事件に関する供述を拒否している。これまでのところ犯行に用いたとされる棒などが見つかっているが、凶器の刃物や女性のスマートフォンは発見されていない。女性の死因も特定されないままだ。
 犯行に関する具体的な供述はなく、物証にも乏しい中で、那覇地検は逮捕容疑と同様、殺人と強姦致死の両方での起訴に踏み切った。現時点で地検は認否を明らかにしていない。法廷では両罪をどう立証するかが焦点となる。
 米軍基地絡みの犯罪の捜査を進める上で障壁となる日米地位協定の問題点が今回の事件でも指摘されている。
 被告は当初、遺体を運ぶのに使用したスーツケースをキャンプ・ハンセン内に捨てたと供述している。被告は米軍基地内で証拠隠滅を図った可能性があるのだ。供述に基づき、県警は基地内のごみが集積するうるま市の最終処分場を1週間捜索した。
 本来なら米軍基地内を捜査対象にすべきだ。しかし、米軍基地の排他的管理権を認める地位協定が基地立ち入りを困難にしている。
 追起訴に当たって県警は「被害者や遺族の無念を晴らすべく、総力を挙げた」との談話を出した。その総力から軍人・軍属をかくまっているのは地位協定なのだ。日本政府は捜査の障壁を排除するため、地位協定の抜本改正に全力を尽くすべきだ。
 在沖米軍が軍人・軍属に対し、飲酒や深夜外出の自粛を命令、要請した「哀悼期間」を6月28日に解除したことも許し難い。事件後も飲酒運転容疑による逮捕者が出た。形ばかりの反省や弔意では事件・事故は抑止できない。