トカゲのしっぽ切りでしかない策が、在沖米軍から派生する事件事故の防止につながるのだろうか。日米両政府は、米軍属女性暴行殺人事件を受けて、日米地位協定上の軍属の適用対象を狭めることで合意した。
内容は、軍属を4分類して定義を明確にし、民間企業の技術アドバイザーやコンサルタントの職能を特定する。日本人の配偶者を持つなど在留資格を有する者は除外する。これで軍属の対象を縮小するのだという。
とはいえ、日米両政府はこの措置で何人程度の軍属が除外されるのか、明らかにしない。
在沖米軍関係者は2013年度末で5万2092人、そのうち軍属は1885人で、全体の約3・6%である。適用対象を狭めても実際に減るのは全体の数%とみられる。対象はわずかだ。
そもそも軍属とはいかなる存在か。地位協定には米国籍を有する文民で米軍に雇用、勤務し、または随伴する者と記されているが、範囲や、米軍駐留に必要な人材かはあいまいだ。
女性暴行殺人事件の被告は基地内の民間企業勤務、5月に覚せい剤、大麻の取締法違反で逮捕された2人は嘉手納基地内の店の販売員、6月に沖縄市で飲酒運転による事故で逮捕された男は基地内の売店などを運営する機関の従業員だった。「随伴」の対象は広い。
数ある地位協定の問題点の一つは、米軍関係者の犯罪が起きた際、米軍の排他的管理権が立ちはだかり、県警による基地立ち入りを困難にしていることがある。
女性暴行殺人の被告は当初、遺体を運んだスーツケースをキャンプ・ハンセン内に捨てたと供述した。基地内で証拠隠滅を図った可能性がある。
対象から外された軍属であっても、基地内で働く限り、犯罪後、基地内に逃げ込むことは可能だ。問題解決にはならない。
岸田文雄外相は参院選前の発表にこだわったという。5日の会見で「女性暴行殺害事件の被告のような立場の人間は対象から外れる」と述べた。事件で焦点が当たった「軍属」を取り急ぎ整理するだけの策で沖縄の反発が収まると思っているとすれば、見当違いだ。
しっぽを切ってもトカゲは生きている。不平等な地位協定の本質に切り込んだことにはならない。