安倍政権と与党による印象操作が奏功し、問われなければならない重大争点が最後までかすんだまま、重い選挙結果が出た。
10日に投開票された参院選で、自民党、公明党の与党が勝利し、おおさか維新などを含めた改憲勢力が憲法を改める国会発議に必要な3分の2超の議席を獲得した。
1947年の施行から一度も変えられていない平和憲法が改悪される恐れが現実味を帯びている。
重大な要素は、米国の軍事行動に付き従う恐れがある集団的自衛権の行使容認、安保法制が施行された中で、衆参両院で改憲発議可能な議席数に達したことである。
被災4県で野党勝利
参院選の焦点は32の1人区だった。野党4党は統一候補を立てたが、自民が21勝11敗と勝ち越した。一方、東日本大震災の復興途上にある青森、岩手、宮城、福島の被災4県で野党が接戦を制して全勝した。3年前は野党側の2勝29敗だっただけに、今回の共闘は一定の成果も上げたと言える。
震災復興の遅れと、恩恵を感じないアベノミクスと地方創生の空回りに対する有権者の怒りが込められたと見ていい。現職閣僚が落選した沖縄選挙区とともに安倍首相は厳粛に受け止めるべきだ。
改憲が現実のものとなれば、日本社会に軍事色が漂い始め、政権への過剰な権力集中を招きかねない。戦後民主主義が支えた平和国家は危うい転換点に差し掛かっている。
2012年の衆院選以来、安倍晋三首相は国政選挙に4連勝し、政権基盤を強固にした。だが、「改憲」信任とは到底言えない。
安倍首相は年頭会見で改憲を巡り「参院選でしっかり訴える」と述べ、「自民党総裁在任中に成し遂げたい」と意欲を示し続けた。
ところが、自民党は改憲を公約の片隅に押し込め、参院選が始まると首相は改憲について沈黙した。露骨な争点隠しの末、改憲勢力3分の2超の結果が出た。
改憲4政党の憲法観はばらばらで、自公でも大きく異なる。正面から是非を主張して国民の信を問うことなく、発議に足る議席数を確保したとしても、国民が改憲を白紙委任したことにはならない。
安倍首相は「憲法審査会に議論の場が移り、どの条文をどう変えるか集約されていく」と語り、改憲論議を深める姿勢を示した。
アベノミクス、経済政策の是非を問うとしながら、安倍政権は選挙でほとんど訴えなかった特定秘密保護法や安全保障関連法を数の力で成立させてきた。これを苦々しく思う国民は多いはずだ。
沖縄が果たす役割
「安倍1強」政治の独走が強まると、立憲主義と民主主義に禍根を残すことは確実だ。
名護市辺野古への新基地建設問題が象徴するように、安倍政権は米国との約束を最優先する対米従属を強めている。過大な軍事的要求を拒めるかが課題となる。
豪州人のマイケル・シーゲル南山大准教授の論が興味深い。自国の防衛を大英帝国に期待し過ぎた豪州は英国の全戦争に参加したが、当時の日本が対英戦争に踏み切った場合、英国は豪州を防衛しないと決めていたという。
その上で、同盟国間の力の差が大きいほど、戦争に引きずり込まれる可能性と身捨てられる危険性が高まると分析する。対米関係を重んずるあまり、沖縄の民意を無視して新基地を差し出し、戦争を放棄する憲法9条の改悪に手を染めれば、豪州がたどった道を日本が再び歩みかねない。
共同通信が沖縄選挙区で実施した出口調査で、改憲反対が61%を占め、賛成の24%を大きく上回った。基地の過重負担にあえぐ沖縄は、憲法の普遍的価値である国民主権、基本的人権の尊重、平和主義に立脚した政治の実現を求め続けてきた。不退転の決意で新基地にあらがい、危うい道に回帰しかけている国の姿を平和憲法の理念に近づける役割を果たしたい。