沖縄の民意だけでなく、国は法律までをも踏みにじるのだろうか。
米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に伴う新基地建設で、国は米軍キャンプ・シュワブ内の陸上部分の工事を再開する意向を示している。
参院選沖縄選挙区でも、新基地建設反対の圧倒的民意が示されたばかりである。その重みを一顧だにしない国の姿勢は到底容認できない。
辺野古代執行訴訟で安倍政権と県は3月、「埋め立て工事を直ちに中断する」ことで和解した。それを国は今になって、陸上部分の工事は「中止対象にならない」と一方的な解釈を持ち出し、和解をほごにしようとしている。
理解し難い。和解直後、国は陸上部分の工事を中止している。和解条項の対象にならないのであれば、中止する必要などなかったはずだ。裁判所の和解条項を恣意(しい)的に解釈することは許されない。
和解成立によって、国は国土交通相による「辺野古埋め立て承認取り消しの執行停止」を取り下げた。それによって知事の承認取り消しの効力が復活し、国は埋め立てに関連する工事を法的に実施できない状態にある。国は、裁判が確定するまで法律的に工事をする権限がないのである。
国は2014年7月から新基地のV字滑走路計画部分に係る診療所や隊舎、倉庫などの解体工事に着手した。解体後はその跡地を埋め立て工事の作業ヤードとして利用する計画である。
陸上部分の工事が埋め立て工事と関係ないはずがない。新基地建設に関係する工事の一環であることは明らかだ。国が「中止対象にならない」と強弁することに正当性はない。
福岡高裁の和解勧告に盛り込まれたのは、双方が「円満解決」を目指すことだった。福岡高裁だけではない。国地方係争処理委員会も「真摯(しんし)に協議」することを求めている。
安倍晋三首相は和解成立を受けて「延々と訴訟合戦を繰り広げれば膠着(こうちゃく)状態となり、普天間が固定化されかねない」などと述べ「裁判所の勧告を受け入れ、県と和解する決断をした」と表明していた。国の決断は4カ月で変わる程度の軽いものだったと言わざるを得ない。
工事再開は民主主義を否定し、法治国家をも否定する行為である。国はそのことを深く自覚すべきだ。