<社説>基地細切れ返還 地元意向無視は許されぬ


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 県民が反対する基地建設を強行する一方で、地元が求めてもいないのに、跡地利用が困難な基地の一部を刻んで返還する。地元の意向はどこまで無視されるのか。

 米軍キャンプ・ハンセン内で返還が合意された一部土地約162ヘクタール(名護市幸喜、許田、喜瀬)のうち、2014年6月末に先行返還された幸喜区の市有地55ヘクタールが引き渡される。
 磁気探査による銃弾などの支障除去作業を終えた沖縄防衛局が名護市と幸喜区に意向を伝えた。土地の引き渡しによって、市や区に支払われてきた支障除去期間に伴う保障金は終了する。
 跡地利用が見込まれる基地返還ならば地元は歓迎するはずだ。しかし、この土地は傾斜地であるばかりか、土地の一部を刻んで返還する「細切れ返還」のため、跡地利用は困難な状況にある。そのため幸喜区など3区は返還延期を沖縄防衛局に求めてきた。
 有効な跡地利用が見込めず、区財政に痛手となる返還に地元幸喜区や市が慎重だったのは理解できる。沖縄防衛局は地元の意向を尊重すべきではないのか。
 先行返還の経緯も疑問だ。許田区と喜瀬区は普天間飛行場移設を条件付きで容認する辺野古区を支持し、防衛業務にも協力する考えを伝え、返還延期を防衛局に求めた。幸喜区は移設を認めていない。先行返還は辺野古移設に反対していることへの「見せしめ」だと幸喜区は疑問視している。
 言うまでもなく、新基地建設と名護市の西海岸側に位置するキャンプ・ハンセンの一部土地返還は全く別の事案だ。もし新基地建設に対する姿勢によって恣意(しい)的に返還時期や返還地域を決めたのであれば到底許されない。沖縄防衛局は幸喜区の疑問に答えるべきだ。
 米軍基地の「細切れ返還」はこれまでも跡地利用や地権者の生活保障面で問題視されてきた。地権者や地元自治体は、効果的な跡地利用が可能となる規模の計画的返還を求めてきた。しかし、米側の都合で小規模返還が実施されてきた。跡地利用は進まず、収入の途絶えた地権者の生活にも打撃となった。
 戦後の基地建設は地域計画の障壁となった。生活基盤の土地を奪われた地権者の中には故郷を離れた人もいる。返還に当たっては基地を抱える地域や自治体、地権者の意向を踏まえるべきだ。二重の苦しみを課すことは許されない。