「地方自治の根幹、ひいては民主主義の根幹が問われる」(翁長雄志知事)裁判が始まった。
翁長知事による名護市辺野古の埋め立て承認取り消しに対し、国土交通相が取り消すよう求めた是正指示に県が従わないことを「違法」だとして、国が違法確認を求めたものだ。
5日の第1回口頭弁論で翁長知事は充実した審理を求めたが、福岡高裁那覇支部の多見谷寿郎裁判長は19日の結審を言い渡した。判決予定は9月16日で、早期に決着を図る姿勢だ。
しかも多見谷裁判長は翁長知事の本人尋問こそ認めたものの、名護市長や安全保障の専門家ら8人の証人申請は認めなかった。知事だけでなく県民が望む「充実審理」がなされるのか、甚だ疑問だ。
今回の違法確認訴訟に至った経緯を改めて確認したい。
辺野古埋め立てを巡る代執行訴訟で多見谷裁判長が示した和解勧告は、沖縄対政府という対立の構図に「双方ともに反省」を促し、地方と国が対等な関係にあるとして「沖縄を含めオールジャパンで最善の解決策を合意し、米国に協力を求めるべきだ」としていた。
その勧告に従い、3月以降、政府・沖縄県協議会の下に作業部会を設けた。同時に国交相は是正指示を出し直し、国地方係争処理委員会が適否を審査してきた。
その係争委も適否は判断せず「普天間飛行場の返還という共通の目標の実現に向けて真摯(しんし)に協議し、双方がそれぞれ納得できる結果を導き出す」ことを求めた。
多見谷裁判長が勧告したように、国と県の話し合いこそが問題解決の近道なのだ。
和解条項に基づき真摯な協議を求めてきた県に対し、国が提訴してきたのが今回の裁判だ。この間、政府は辺野古陸上部分の工事再開を県に打診するなど、和解の趣旨を理解していないとしか思えない行為を繰り返してきた。
今回の裁判で期待されたのは事務的な手続きの是非ではない。埋め立てや海兵隊駐留が本当に必要なのか、沖縄に米軍を押し付けることが民主主義からして妥当なのか本質を問うものであったはずだ。
政権の横暴にお墨付きを与えることが司法の役割ではない。だが口頭弁論での訴訟指揮を見る限りその懸念は拭えない。裁判では民主主義だけでなく司法の独立も問われている。