<社説>16年版防衛白書 沖縄をアジアの平和拠点に


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 腹の底から怒りを禁じ得ない。2016年版防衛白書の記者会見で中谷元・前防衛相が述べた「沖縄の地理的優位性を国民に丁寧に説明していく」という言葉だ。

 「沖縄の地理的優位性」は元々米軍が在沖基地の重要性を強調した表現だ。日本周辺から「アジア太平洋」へ日米共同行動の拡大を提起した「日米安保共同宣言」の1996年ごろ以降、防衛白書に盛り込まれた。
 記者会見で中谷氏が公然と言い放ったのは、国民への浸透を図り、在沖米軍、自衛隊配備をさらに強化するとの宣言にほかならない。
 中国、北朝鮮との近さが「地理的優位性」の根拠だ。だが在沖基地の近さをミサイル攻撃を受けるリスクと指摘し、海兵隊の輸送・機動力の向上により沖縄の「優位性」を否定する声も米国内にある。
 白書は沖縄が「潜在的紛争地域に近いと同時に、軍事的緊張を高めない一定の距離にある」とするが、これも欺瞞(ぎまん)に満ちている。
 白書発表の翌3日、北朝鮮はミサイル2発を発射した。白書が北朝鮮への防衛強化を示したことへの反発との見方も出ている。中国も反発する見解を出した。防衛白書、沖縄の軍備強化が周辺国との緊張を高めているのは明白だ。
 緊張が紛争に発展した場合、沖縄が攻撃目標となりかねない。米軍嘉手納基地、自衛隊配備が進む宮古、八重山にはミサイル防衛の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が配備されている。
 昨年の安全保障関連法の成立後、初の白書である。米軍と自衛隊の共同行動の地理的制約を解いた安保法は当初の尖閣諸島・東シナ海から、いつの間にか日本の領域外の南シナ海まで範囲を広げた。
 安保法の背景には2012年の米国の「ナイ・アーミテージ報告」が「集団的自衛権の容認」「尖閣、南シナ海での日米の作戦展開」を促したことがあった。
 白書は南シナ海での中国の軍事動向に「強い懸念」を表明した。自衛隊が南シナ海での日米作戦にのめり込む懸念を拭えない。
 1934年の「沖縄防備対策」は「沖縄ノ国防上ノ価値極メテ重要」と記した。11年後に沖縄は焦土と化した。「沖縄の地理的優位性」の言葉には再び沖縄を軍事要塞とする軍人の発想がにじむ。
 沖縄は再び戦場となることを拒否する。「地理的優位性」はアジアの平和拠点として生かすべきだ。