<社説>沖縄振興計画5年 優しい社会をインフラに


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 10年間の沖縄県の施策の基本となる沖縄振興計画「沖縄21世紀ビジョン」が5年目となり、県は後半5年に向けた検証を始めている。

 466項目の指標を見ると、観光や情報通信関連産業が着実に伸びる一方、非正規雇用や離職の割合は全国より高く、1人当たり県民所得は全国平均の約7割しかないという課題は依然として克服されていない。
 課題が目に見えるのも、21世紀ビジョンが目標値に対する進捗(しんちょく)状態を点検するPDCAサイクルを本格的に導入したからだ。
 1972年の日本復帰以降、10年単位で3次の振興開発計画と振興計画(4次)が策定された。いずれも国主導でつくられ、個別施策の具体的な目標設定はなく、国、県ともに効果を検証する作業はほとんどなかった。
 1~3次計画は本土との格差是正をうたい、続く第4次は自立的発展の基礎的整備を挙げた。インフラ整備を主とした計画は高率補助制度に大きく依存し、道路や港湾など特定の公共事業に偏っていた。県も市町村も1千万円の自主財源を補助率の低い福祉や教育に充てるよりも、9割が補助される1億円の公共事業に向かいがちだった。
 しかし公共事業が住民生活にもたらした利益を図る指標はほとんどなかった。
 21世紀ビジョンは沖縄県が初めて自ら策定した計画だ。さらに使途の自由度の高い沖縄振興一括交付金が展開されているという違いがある。従来の補助メニューと違う、地域の実情に合った施策を導入する必要がある。それには効果の検証が欠かせない。
 21世紀ビジョンが5年の折り返し点を迎え、新たな課題も見えてきた。第一に挙げられたのは子どもの貧困対策だ。沖縄県の子どもの貧困率は全国の1・8倍で、3人に1人は貧困状態にあるという衝撃的な実態が県の調査で明らかになった。
 県は先日公表した21世紀ビジョンの中間評価素案で、経済的に修学が困難な子どもへの教育の機会均等と、貧困の世代間連鎖を断ち切る方策が必要だとしている。
 21世紀ビジョンは「沖縄らしい優しい社会の構築」を基軸に打ち出す。施策の詳細な検証を通し、貧困や社会の格差解消に取り組もう。優しい社会を沖縄県の新たなインフラとするために。