<社説>不妊治療支援 誰もが受けやすい環境を


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 働きながら不妊治療を受ける人を支援するため、政府が新たな制度創設に2017年度から着手する。不妊治療を受ける人が治療と仕事を両立させるには、休暇制度の創設が不可欠である。制度を導入する企業を、政府が積極的に支援することを求めたい。

 併せて不妊治療への公的助成の所得制限などを撤廃し、誰もが等しく治療を受けやすい環境づくりを整えたい。
 患者支援に取り組むNPO法人Fine(ファイン、東京)によると、国内で不妊症に悩むカップルは6組に1組といわれ、何らかの不妊治療を受けている人は50万人近いと推測されている。
 頻繁な通院が必要な不妊治療は仕事との両立が難しく、離職や休職を余儀なくされる女性は多い。収入を失う離職者、人材を失う企業双方にとって大きな損失であり、放置してはならない。
 既に富士ゼロックスなどが不妊治療を目的とした休職制度を導入している。だが、不妊治療を受ける社員への支援の動きはごく一部にとどまっている。中小企業は、政府の支援なしに長期の休職制度などを設けることは難しい。
 このため政府は休暇制度などの枠組みを策定し、導入企業への支援を検討する。策定に際しては厚生労働省が民間機関を通じ、企業を対象に実態を調査する。企業側も積極的に声を上げ、官民で実効性のある支援策を確立したい。
 晩婚化に伴い、不妊治療は年々拡大している。政府は働く人だけでなく、専業主婦らへの支援拡充にも取り組むべきだ。
 日本産科婦人科学会によると、国内の医療機関で2014年に実施された体外受精は39万3745件で、4万7322人の子どもが生まれた。実施件数、出生数とも過去最多となった。
 だが一部を除き、体外受精や顕微鏡下で精子を卵子の中に送り込む顕微授精などの不妊治療は公的医療保険が適用されない。
 一般的に体外受精の費用は1回当たり30万~50万円かかる。顕微授精ではさらに5万~10万円プラスと高額で、治療を続けるうちに貯金を切り崩す夫婦も少なくない。
 政府は今年1月から初回助成の上限を30万円と2倍にしたが、合計所得額が730万円未満の法律上の夫婦が対象である。所得制限を撤廃し、事実婚も対象にすることも必要だ。