戦争の影響で精神疾患になり、国の費用負担で療養を続けたまま亡くなった旧日本軍関係者らが、政府統計が残る約50年で999人に上ることが分かった。その7割近い682人は入院したまま最期を迎えている。
1964年以前の統計はなく、戦争で心の傷(トラウマ)が生涯残った人は千人をはるかに上回ることは容易に想像がつく。
戦争を生き抜いたとしても、多くの軍人らが精神を患い、長期にわたって療養を強いられた。戦争は苦しみと不幸しかもたらさないということだ。
治療の中心的役割を担った国府台陸軍病院(千葉県)の医療記録を分析している細渕富夫埼玉大教授によると、精神疾患の要因は戦闘への恐怖、軍隊生活で受けた制裁、加害行為への罪悪感などが多いという。
記録には「部隊長の命令で住民を7人殺した。その後恐ろしい夢を見る。(中略)幼児も一緒に殺し、余計嫌な気がした」などの生々しい記述が並ぶという。
訓練を受けた軍人でさえ心的外傷後ストレス障害(PTSD)などを発症するのである。戦争がいかに非人間的なものかを物語る。
だがそれは軍人に限ったことではない。沖縄戦トラウマ研究会が2012年4月から13年2月に実施した調査では、沖縄戦体験者の約4割がPTSDを発症しているか、発症する可能性が高い深刻な心の傷を抱えていた。
米軍の04年の研究論文によると、PTSDの症状がある兵士の割合は、イラクから帰還した陸軍部隊で派遣前の5・0%から12・9%に増加した。
因果関係は明らかではないが、政府によると、アフガン戦争とイラク戦争に絡みインド洋やイラクに派遣経験があり、在職中に自殺した自衛隊員は56人に上る。
政府は安保法制の国会審議で「(海外派遣は)隊員の精神的負担は相当大きいと考えられる。PTSDを含む精神的問題が生じる可能性がある」と自衛隊員への影響拡大を認めている。
暴徒に襲撃された国連職員らを武器を使って守る駆け付け警護などで、自衛隊員がより大きなリスクに直面するのは間違いない。
政府はそれでも自衛隊員を戦場へ向かわせ、危険にさらすのか。自衛隊員の心身の安全を軽視することは断じて認められない。