<社説>賠償・廃炉費転嫁 原発ありきの姿勢改めよ


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 東京電力福島第1原発事故の巨額の賠償費や廃炉費、それ以外の原発の廃炉費を国民や「新電力」に負担させる案を政府が示し、「つけ回し」との反発を招いている。

 沖縄に原発はなく、県外の電力網からも切り離されている。県民に新たな負担を負わせない確約を政府に求める。その上で国民への費用転嫁の疑問点を指摘したい。
 福島第1原発の賠償、除染、廃炉費などの総額が20兆円に上ることが最新の政府試算で明らかになった。従来の試算が2倍に膨れ上がった。
 福島原発事故の賠償費用は本来、東京電力が負うが、国の機構が費用を立て替え、大手電力各社が負担金を支払う仕組みとなった。莫大な費用負担を電力各社が「相互協力」する形だが、電力料金への上乗せにより負担は国民に回る。福島原発の賠償費が電力料金に転嫁されることに多くの国民が不満を抱いているのではないか。
 それだけではない。政府は電力自由化で参入した原発を持たない「新電力」にも、福島原発の賠償費や、それ以外の原発の廃炉費を負担させる考えを示している。
 「新電力」は競争により料金の値下げを促すのが、電力自由化の狙いだったはずだ。原発に依存しない再生エネルギーへの転換を求める契約者も多い。
 新電力29社へのアンケートで約9割の26社が賠償、廃炉費負担について「適切でない」とし、「原発の恩恵はほぼ皆無なのに、負担を強いられるのは納得できない」などと答えている。脱原発を願って新電力に切り替えた契約者の反発も根強い。
 安倍政権は脱原発の声に反し、各地で原発の再稼働を進めている。2030年の電源構成比率で原発を「20~22%」とし、原発の再稼働や原則40年の運転延長を見込んでいる。原発の輸出を成長戦略に位置付けてもいる。
 原発の賠償費や廃炉費の国民、新電力への転嫁は、東京電力など電力会社の負担を軽減し、将来にわたる原発維持政策の疑念を拭えない。
 福島第1原発は廃炉の道筋さえ見えない。多くの国民は東日本大震災時の同原発の惨状が脳裏に焼き付き、世論調査で国民の約6割が原発再稼働に反対し続けている。
 政府は原発ありきの姿勢を改め、賠償、廃炉費の問題と同時に、原発維持政策の是非について国民的な議論を進めるべきだ。