ネット上に流布するデマや中傷をかき集めただけの文書だ。それを政府機関が作成し、堂々と発表するのだからあぜんとする。
公安調査庁がこのほど発刊した報告書「2017年 内外情勢の回顧と展望」の中で、沖縄と中国の学術交流を「日本国内の分断を図る戦略的な狙いが潜んでいる」などと批判し「今後の沖縄に対する中国の動向には注意を要する」と警告した。
いかなる根拠に基づいて「日本国内の分断を図る」と言えるのか、理解に苦しむ。中国脅威論と絡め、研究者の活動を阻害するものだ。アジア各国の交流を通じて発展を目指す沖縄の将来構想にも悪影響を及ぼしかねない。
問題の記述は、中国の動向を取り上げた箇所にあり、「中国国内では、『琉球帰属未定論』に関心を持つ大学やシンクタンクが中心となって、『琉球独立』を標ぼうする我が国の団体関係者などとの学術交流を進め、関係を深めている」などと指摘した。
歴史的に深い関わりがある沖縄と中国の研究者が学術交流を進めるのは当然のことだ。昨年5月に北京で開かれた「琉球・沖縄最先端問題国際学術会議」では「琉球処分」を検証しながら、在沖米軍基地問題や沖縄の自己決定権について意見を交わした。
米軍基地の重圧にあえぎ続ける沖縄の現状と将来像を考えた場合、自己決定権の行使は重要な意味を持つ。それを議論する学術交流を「国内分断」とレッテルを貼るのは極めて短絡的な思考だ。
ほかにもある。辺野古新基地やヘリパッドの建設に反対する運動に関しては「公道に座り込むなどして移設工事関連車両の通行を繰り返し妨害し、逮捕者を出すなどした」と記述した。
米軍属女性暴行殺人事件に対する県民の抗議や県民大会に関する記述では「県内各地の米軍施設周辺で抗議行動に取り組み、海兵隊の撤退などを訴えた」「全国から党員や活動家らを動員した」と記している。
特定の政党や団体が反基地運動をあおっているかのような書きぶりだ。しかし、辺野古新基地やヘリパッドの建設阻止、海兵隊撤退の要求は県民の人権を守るという切実な願いに基づくものだ。
報告書は沖縄敵視の姿勢すらうかがえる。偏見に満ちた言い掛かりは国民の沖縄観をゆがめる。記述撤回を公安調査庁に求めたい。