<社説>政府の無責任答弁書 県民の疑念軽んじる態度だ


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 議員が政府の姿勢をただす質問主意書に答える政府答弁書は、閣議決定の手続きを経た政府の公式見解だ。安倍政権はその意義を軽んじていると言わざるを得ない。

 沖縄と中国の学術交流を「日本国内の分断を図る戦略的な狙いが潜んでいる」と分析した公安調査庁の報告書ついて政府の見解を聞く質問主意書などに対し、政府は「お答えを差し控えたい」と多くの質問で回答を避ける答弁書を閣議決定した。「分断を図る」という一方的な記述の根拠を示そうとしない政府の態度は許し難い。
 問題の報告書「内外情勢の回顧と展望」は、法務省の外局である公安調査庁が国内外の治安状況や近隣諸国の動向を列記した政府の公式文書である。
 同庁は関連法令に基づいて調査活動し、報告書をまとめたのではないか。それならば「答えを差し控えたい」というような無責任な回答はあり得ないはずだ。
 報告書は、ネット上に流布している中傷やデマをかき集めた内容だとして県民の批判を浴びた。「『琉球独立』を標ぼうする我が国の団体関係者などとの学術交流を進め、関係を深めている」などとする記述の根拠は希薄だ。
 米軍属女性暴行殺人事件に抗議する昨年6月の県民大会に対しても「全国から党員や活動家らを動員した」と記述した。照屋氏は質問主意書で「事実に反する予断と偏見をもって沖縄を敵視する内容」と厳しく指摘している。
 事実に反する文書によって国民全体の沖縄観をゆがめてはならない。政府は県民の疑問や批判を直視して記述の根拠を示し、事実に反していれば間違いを認めるべきだ。今回の答弁書のように「公安調査庁の見解を示したものである」という言い逃れは許されない。
 過去の答弁書にも政府の不誠実な態度が散見された。ヘリパッド建設に反対する市民に対する大阪府警機動隊員の「土人」発言に関して「差別と断定できない」とする答弁書を閣議決定した。金田勝年法相は差別的言動に当たるとの認識を示しており、閣内不一致との批判がある。
 質疑の機会が限られる野党議員にとって質問主意書は政府をただす重要な手段であり、答弁書は国会答弁と同じ重みを持つ。県民の疑念を踏まえた質問主意書を軽視する政府の姿勢は県民軽視そのものであり、到底容認できない。