2016年度教科書検定で、沖縄の記述に関して中立性を欠き、歴史的事実が十分記述されていない教科書があった。
日本史や政治・経済の教科書の中で、琉球・沖縄史をしっかり学んでもらうために、教科書会社は、沖縄の研究者に執筆や監修を任せるなどして、沖縄の知見を反映させてほしい。
沖縄返還協定時の核密約について、山川出版社の日本史B「新日本史改訂版」は「この密約がなければ、沖縄返還はさらに遅くなっただろう」と記述した。
1969年11月、緊急時に在沖米軍基地への核兵器の「再投入」と「貯蔵」を認める密約が交わされた。しかし「推論の域を出ない」と研究者が指摘するように、核密約と施政権返還の因果関係は明らかではない。むしろ日米が秘密裏に進めた核密約を正当化しかねない表現とも言える。
2014年に改正された教科書の検定基準では「近現代史で通説的な見解がない場合、そのことを明示し、児童・生徒が誤解しない表現にする」ことになっている。今回の表現は教科書にふさわしいか大いに疑問であり、山川出版社は記述を修正すべきだ。
沖縄戦の「集団自決」(強制集団死)については「日本軍によって『集団自決』に追い込まれた」など各社とも軍隊の関与が読み取れる。しかし「日本軍による強制」「軍命」などが今回も記述されなかった。各社に強制性を明記するよう求める。
沖縄戦の開始時期については山川出版の3冊が米軍が沖縄本島に上陸した「1945年4月」とした。沖縄戦は米艦載機による慶良間諸島を含む沖縄本島の大規模空襲に続く3月26日の慶良間諸島米軍上陸から始まる。慶良間諸島では日本軍の軍事作戦上の指導、強制などによって住民らの集団死が発生した。4月と記述すると、沖縄戦の実相を学ぶ機会が失われてしまう。山川出版は直ちに改めるべきだ。
また明治政府による沖縄県設置を「琉球併合」「廃琉置県」と表記した教科書には「生徒が誤解するおそれのある表現」との検定意見が付き「琉球処分」に改められた。しかし、県内の研究者は「琉球併合」「廃琉置県」と呼ぶのが実態にふさわしいと指摘している。この点でも沖縄の知見を反映させる必要がある。