犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」法案を与党が強行採決しようとしている。そもそも衆院法務委での審議時間が不十分で議論は深まっていない。
捜査機関が団体や個人の動きを常時監視する「監視社会」につながりかねないという本質は変わらない。過去に3度廃案になったように、思想及び良心の自由を保障した憲法に反する法案は廃案にすべきである。
政府は当初、国際組織犯罪防止条約(パレルモ条約)を批准するために国内法を整備すると説明していたはずだ。いつの間にか東京五輪のテロ対策に必要だと印象操作している。
しかも、この条約はマネーロンダリング(資金洗浄)などの資金対策が中心で、テロ防止とは直接関係がない。日弁連が主張してきたように、関連する多少の法整備をするだけで条約批准は可能であり、対象犯罪数が277にも及ぶ必要はない。日本では現在、既遂、未遂ではなくても罪に問えるものとして陰謀罪8、共謀罪15、予備罪40、準備罪9が既に定められている。
安倍晋三首相は1月の国会答弁で、処罰対象は「そもそも犯罪を犯すことを目的とする集団」としていたが、2月には「そもそもの目的が正常でも、一変した段階で一般人であるわけがない」と説明を変えた。線引きがあいまいなのである。
対象は際限なく広がり、労働組合など正当な目的の団体であっても、捜査機関が「組織的犯罪集団」として認定すれば処罰対象になる可能性がある。沖縄の新基地建設反対や反原発といった市民運動にも及ぶ恐れが指摘されている。
治安維持法の下で過去に言論や思想が弾圧された反省を踏まえ、戦後日本の刑法は犯罪が実行された「既遂」を罰する原則がある。
しかし共謀罪は、実行行為がなくても犯罪を行う合意が成立するだけで処罰する。捜査機関が恣意(しい)的に運用する恐れがあり、日本の刑法体系に反する。犯罪実行前に自首した場合は刑を減免する規定があり、密告を奨励する恐れがある。
組織犯罪処罰法案が成立すれば、既に成立している特定秘密保護法などと組み合わせて、戦前の治安維持法のように運用される恐れがある。国民のプライバシーが根こそぎ政府に把握されるような悪法は必要ない。