<社説>護岸着工1カ月 「後戻り」今しかできない


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 宝の海が侵されていく。本紙が25日付朝刊に掲載した名護市辺野古での新基地建設に伴う「護岸」工事の様子は、沖縄が誇る青い海と、そこに延びる灰色の砕石との対比で異様さを浮き彫りにした。

 1カ月前、政府が工事に着手した際、翁長雄志知事は危機感と同時に「始まったばかりで、二度と後戻りができない事態にまで至ったものではない」と話していた。
 新基地建設に反対する県民が7割を超える中、工事を続行する正当性は薄い。それでも現場では砕石や土砂が海に投入されていく。原状回復が困難になる前に「後戻り」できるのは今しかない。民意を受け止め、政府は直ちに工事を止めるべきだ。
 同時に翁長知事には埋め立て承認の撤回を含め、工事を止める手だてを講じてもらいたい。希少なサンゴをはじめ、豊かな生物相を守るには一刻の猶予もない。
 辺野古新基地建設を争点とした各種選挙では、いずれも反対派が勝利した。これだけにとどまらない。本紙が実施した復帰45年県民世論調査で、辺野古に新基地を建設すべきだと回答したのは18%しかなかった。74・1%は普天間飛行場の撤去、または県外・国外移設を求めている。「辺野古が唯一」と考える政府と違い、県民の多数は新基地を望んでなどいない。
 さらに政府は自らの政策の矛盾にも気付いていないのではないか。
 内閣府が16日に発表した沖縄観光ステップアップと題する新戦略はクルーズ船の寄港増加に伴う交通環境などの整備、やんばる国立公園の指定を契機とした価値の増大を掲げた。
 大型クルーズ船寄港に伴い整備を予定する本部港や、観光客に人気のある美ら海水族館まで、辺野古からは25キロ前後にある。やんばるの森までも数十キロだ。訓練場所である伊江島補助飛行場や北部訓練場への通過地点でもある。
 観光地の真上でオスプレイなど危険な航空機を飛ばそうというのか。観光振興の主な舞台であるやんばるに新基地を造るのは、消火器を構えながら火に油を注ぐ愚に見える。
 翁長知事が埋め立て承認を撤回できる環境にあるのは世論が示している通りだ。普天間飛行場は危険であり、直ちに閉鎖すべきだ。抑止力でもない海兵隊が新基地を必要とする根拠も薄い。豊かな海に取り返しのつかない被害を与えるまで待つことはできない。