作家の百田尚樹氏が自民党国会議員の勉強会で「米兵の犯罪者より沖縄人が犯したレイプ犯罪の方がはるかに率が高い」と述べた。
ネット上ではこの種の文言が広く流布している。沖縄の学生ですらこれを信じる人は多いという。
だがこれは明らかなうそだ。むしろ悪意の込もった中傷といえる。
凶悪犯のほか窃盗犯なども含む一般刑法犯の摘発は、2011年度でみると米軍関係者が0・11%、県民は0・27%で確かに県民が高い。
しかしこれは米軍関係者が基地内で犯したものは含んでいない。基地内に住む米兵が基地外にいる時間はせいぜい週末の数時間で、圧倒的大部分である基地内での犯罪は暗数として見えないのだ。
米国防総省は、14会計年度の米軍内の性的暴行は1万9千件と推計した。性的暴行だけでこの数字だ。こうした暗数が表に出れば、犯罪率は跳ね上がるはずだ。
しかも米軍人軍属は治外法権的な特権に守られている。公務中の犯罪は日本に裁判権がないからそもそも表面化しない。公務外の犯罪も、日米地位協定により日本側は原則として身柄を拘束できない。
米側の基地内での拘束は「基地の外に出てはいけない」という単なる禁足程度の例が多い。基地内は自由だから証拠隠滅、口裏合わせも可能である。事実、強盗事件の公判で米軍の将校が、容疑者たちは証拠隠滅や口裏合わせが可能だったと証言した例もあった。
その上、犯罪見逃しの密約もあるのだ。1953年の日米合同委非公開議事録にこうある。「日本は米軍人軍属に対し日本にとり著しく重要と考える例以外は裁判権を行使するつもりがない」。在日米軍法務部の担当者は01年の論文で「日本はこの合意を忠実に実行している」と書いた。米軍関係者の一般刑法犯起訴率は今も1割余で、大部分は罰を受けてないのだ。
基地内の犯罪は見えず、基地外の犯罪も密約で見逃し、見逃しようがない場合も証拠隠滅によって摘発に至らないというわけである。米兵の摘発はこれらを奇跡的にくぐり抜けないと不可能なのだ。比較するならこうした暗数も表に出すべきだ。
そもそも米兵と県民の犯罪率を比べること自体、本質を見誤っている。米軍基地のない33府県では米兵の犯罪は無に等しい。沖縄1県だけに犯罪被害の圧倒的大多数を背負わせる現状が理不尽なのだ。