[日曜の風]広がる「差別という病」 新型肺炎


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 新型コロナウイルスの感染症が世界を不安に陥れている。

 肺炎になって命を落とす人もいるので決して軽視はできないが、私が勤務する病院では「届け出は必要だが、原則的にはインフルエンザの患者さんと同じ対応で」というガイドラインで診療を行うことになっている。まずは落ち着いて、「食事、睡眠、手洗いとうがい」という基本の健康対策を行うのが大切だ。

 ネットでは「死亡の数は公式発表よりずっと多い」といったデマも拡散されているようだ。また、飲食店が「中国人お断り」という貼り紙をした、日本の学校にいる中国人の子どもが「帰れ」という声を浴びせかけられた、など差別的な対応もあちこちで行われているようだ。本当に残念なことだ。

 誰かが「ウイルスは民族や人種を選ばない」と言っていたが、まさにそうだ。今回の感染症が始まったのは中国からかもしれないが、いろいろな経路でウイルスが広まってしまうのは完全には防げない。今しなければならないのは、国家や民族の壁を取り払って世界が協力し合うことのはずだ。

 中国に対する一部の日本人の冷たい態度を見ていると、「この人たちは何かあれば、簡単に沖縄や私のふるさと・北海道も切り捨てるのでは」と心配になる。もし、これらの地域で新しい感染症が起きたら、すぐに「本州に来るな」と言われたり、その後もずっと「病気をうつさないでね」などとからかわれたりすることになるのではないか。

 新型ウイルスが浮き彫りにした、人びとの中にある差別意識。いま世界の専門家たちが必死の取り組みを続けており、今回の感染症は程なく終息に向かうと思われる。しかしそのあと私たちは、「差別という重い病」を“治療”しなければならないのだ。

(香山リカ、精神科医・立教大教授)